2013年09月22日

京都で『十帖源氏』を読む「須磨_その6」

 京町家のワックジャパンは、いつも落ち着いた雰囲気で話し合いができて快適です。
 その一室をお借りして開いている『十帖源氏』の勉強会も、順調に「須磨」巻の現代語訳が進んでいます。
 今回は、2階の東側にある小さな部屋で、かわいい机を並べての勉強会です。

 清水婦久子先生が、ご所蔵の『十帖源氏』『絵入源氏』『源氏小鏡』を数冊持参してくださったので、みんなで興味深く拝見しました。刷りの古いもので、版本に疎い私は、先生の説明をありがたく伺いました。最近は、版本も積極的に見るようにしています。やはり、いい本を数多く見ることが大切です。これを機会に、認識をあらためました。

 さて、海外の方々が自国語に翻訳なさるための参考資料となるように、わかりやすい『十帖源氏』の現代語訳を作成しています。

 今日は、大宰大弐が上京する際に、光源氏がいる須磨の寓居を訪れる場面で、校訂本文の読み方に問題が出されました。

 『十帖源氏』には「其比大弐はのほりけるむすめかちにて北の方は舟にてのほる」(82オモテ)

 担当者は、ここで「娘がちにて」としました。しかし、「娘、歩行(かち)にて」ではどうか、という意見が出されたのです。北の方が船であることに対して、娘は徒歩で、ということからのものです。
 『新編日本古典文学全集』(小学館)は、校訂本文を「むすめがちにて」とし、その下段に示された現代語訳は「娘もたくさんいるので」となっています(203頁)。

 その場で調べられた範囲での校訂本文は、「娘がち」ばかりでした。古語辞典も、この「須磨」の例を引いて「娘がち」を立項しています。

 『十帖源氏』のここでは、ほぼ原文をそのまま引いているところです。
 本文の解釈にも関係するので、さらに調べることになりました。

 その後の、「雪ふりあれける比」の現代語訳も、さまざまな角度から検討しました。

 担当者は、ここを「雪がひどく降っている頃、」と訳しました。しかし、この文章は、「月の影すごくみゆる」と続くのです。そのため、雪が降り荒れていることと、月影がもの寂しく見えることの整合性をとる必要があります。ここは、原文を大幅にダイジェスト化したために、こうしたことになっているのです。

 ここで発生した無理を現代語訳でうまく回避する必要があります。
 時間をかけて検討した結果、「雪が降って風が強い日、」となりました。これで、雪よりも風が吹き荒れる様子が強調され、それに続く月影の描写が不自然ではなくなります。
 この月影の箇所をあらためて確認したところ、この直前に「月いと明うさし入りて」とあるのです。なおさら、吹雪の対処が求められる場面でした。

 海外の方々が翻訳しやすいような現代語訳を目指しています。それに加えて、ダイジェスト化にともなう不整合の解消も、現代語訳でしておくことも大事です。

 さまざまな視点で現代語訳を見直しながら、さらに検討会を進めていくつもりです。
 興味と関心をお持ちの方の参加を、お待ちしています。

 次回は、10月5日(土)午後3時から5時までです。
 場所は、同じくワックジャパンです。

 新しくご参加の際には、資料の用意の都合がありますので、事前に本ブログのコメント欄か、NPO法人〈源氏物語電子資料館〉のホームページから事務局にご連絡をいただけると幸いです。
posted by genjiito at 23:47| Comment(2) | ◎NPO活動
この記事へのコメント
コメント失礼します。

「娘、歩行(かち)にて」とするとかの筑紫五節までが大宰府から歩いて来たことになり、やはり不自然な気がします。

筑紫五節は花散里巻初出ですが、個人的には朱雀大嘗祭の五人の舞姫の受領枠の一人だったのではないかと妄想を逞しくしています。元来なら叙位に預かるべき処を、父が大弐となったため筑紫に付き随い五年後に帰京したとすれば時系列が合うからです…あくまで妄想ですが(汗
Posted by 葵桂 at 2013年09月23日 01:35
いつも貴重なコメントをありがとうございます。
「娘がち」と「娘、歩行」については、『十帖源氏』を著した野々口立甫が、ここをどのように理解してダイジェスト化したのか、という問題になるかと思います。『源氏物語』そのものの本文の解釈とは異なる問題でもあり、そうした視点からさらに調べてみたいと思っています。
Posted by genjiito at 2013年09月23日 01:59
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