2013年08月31日

藤田宜永通読(17)『瞑れ、優しき獣たち』

 藤田宜永の第3作目となる長編小説です。
 前2作は、私立探偵鈴切信吾が主人公でした。
 この作品では、アウトローである犯罪者たちがコルシカ島で繰り広げる、純粋な愛と残酷な犯罪がテーマとなっています。ハードボイルドとして楽しめる、おもしろい作品です。

 本作も、舞台はパリから始まります。場所は賭博場。そこへ、警察が突入。もぐりのカジノへの手入れをめぐり、物語はおもしろい展開となるのです。

 警官を殺したことで、主人公真壁は地下に潜ることになります。そして話はコルシカ島へと移るのです。
 ヤクザとギャングたちの復讐劇のはじまり。
 その底流には、カジノが手入れを受けたことに関して、その密告者を探すことがあります。これは、最後まで続きます。

 血で血を洗う抗争劇を見ながら、復讐の連鎖がおぞましく感じられるようになりました。そして、「やられたら倍返し」の信条のもとに信念を貫く、最近のテレビドラマで人気を博す「半沢直樹」のことに思いが連なりました。小説とドラマとでは性格を異にするとはいえ、根は同じように思えたからです。性善説の下、正義のために闘うのですから。

 私は、復讐劇が高視聴率を取っている今の社会現象と重ね合わせて、何となく不気味さも感じています。主人公の非現実的な活躍を通して、爽快感を共有できます。しかし、それがあくまでもフィクションであることへの自覚が欠落すると、現実の社会を混乱させます。

 虚構を描いた小説は、読者の想像力に俟つところが多いと思います。それが映像によるテレビドラマとなると、知らず知らずのうちに目に飛び込んでくる画像と音声による情報が、積極的な理解を超えて観る者に届くのではないか、と思われます。何となく感じることとなる影響力に、不気味さがあると思うのです。
 小説を読む場合は、読者なりのイマジネーションによって意識的にコントロールできるものがあります。しかし、画像と音声によって刻を追って押しつけてくるテレビドラマでは、人間の理性や理解を飛び越えてくるものがあるように思います。
 もっとも、まだ、うまく説明できませんが……

 さて、小説にもどります。

 後半で、真壁が大事にする加奈子が急に心変わりをして、島を出ようといいます。それから、誘拐合戦へ。
 終盤の結末まで、謎解きとスリリングな展開が最後まで緊張感を途切れさせずに、一気に読ませます。【5】
 
 
※初出:C★NOVELS『瞑れ、優しき獣たち』(中央公論社)
    昭和62年(1987)5月、書き下ろし
posted by genjiito at 22:57| Comment(0) | □藤田通読
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