2013年08月28日

藤田宜永通読(16)『標的の向こう側』

 場所はパリ。私立探偵である鈴切信吾の登場です。
 早速カルバドスが出てきました。藤田宜永の作品を読むようになってから、私も飲み出したお酒です。
 本作品は、藤田の第2作となる長編小説です。

 早々に、藤田お得意のケンカのシーンがあり、テンポよく話が進みます。バックには、いつものようにポピュラーの曲が流れています。舞台はフランス。しかし、本作品では時々スペインの香りがする展開となっています。

 前作よりも進歩したのは、人物と背景が描写されていることです。これは大きな一歩だと思っています。

 探偵鈴切は、車でパリを走り回るので、いい市内観光に付き合う雰囲気も味わえました。そして、息もつかせぬドラマの中に入り込み、ハラハラドキドキします。これが、藤田の世界です。

 人間の繋がりが次第にわかってくると、複雑な関係の中に潜む意味が解けてきて、さらに引き込まれていきます。
 舞台がフランスからスペインに移ると、俄然おもしろくなりました。お国柄を反映させながら展開していくからでしょう。そして、話も自然に外国らしを醸し出してくるところが、フランスを知り尽くした藤田らしい視点で見えてきます。2度美味しい海外探偵話です。

 後半でスペインへ舞台が移ってからは、相手の腹を探り合う展開となり、スピード感がなくなりました。おもしろさが半減です。

 また、「日本語だろうがインド語だろうが、好きな言葉を使っていいのよ。」(角川文庫、278頁)とか、「インド語」と言っている場面がありました。このように言う作者の意識に興味を持っています。インドをどう理解しているのか、という意味で。
 「アフリカ、インド、南アメリカ、いろいろなところへ行ったよ」と猛獣の話になった時、主人公は「このまま相手に話を合わせていると、アフリカやインドに連れて行かれてしまいそうだ。」と言わせています(351頁)。
 作者が思い描くインドというイメージは、おもしろそうです。ただし、例が少ないので、さらに集めてみます。

 鏤められていた謎が、最後に一気に明かされます。もっと前で撒き散らしておいてくれたら、と思いました。ネタが出し惜しみされたために、後半が急展開になってしまっているのです。また、犯人が母親の存在の大きさと言うか幻影と闘った、とあるのは取って付けたようです。

 さらに、後半でスペイン戦争が背景にある展開には、私にその歴史や地理的な知識がないために、なかなか理解しづらいものがありました。そのせいもあってか、最後の段階で物語に這入り込む状況にならなかったことが、非常に残念です。
 作品の中で、読者へのレクチャーとでも言うべきサービスがあればよかったのに、と思っています。【3】

※初出:カドカワノベルズ『標的の向こう側』(角川書店)
    昭和62年(1987)4月、書き下ろし
posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | □藤田通読
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