2013年08月10日

京都で『源氏物語「蜻蛉」』の写本を読む(第2回)

 猛暑の中、いつものように京都御所南にあるワックジャパン「わくわく館」に集まりました。
 基本的なことは、「京都で『源氏物語「蜻蛉」』の写本を読む(初回)」(2013年7月13日)で確認した通りです。

 今日は、ハーバード大学本『源氏物語』「蜻蛉」巻の巻頭部分のに書かれた文字を、丁寧に見ていきました。
 第1頁目となる墨付き第1丁オモテに記されている1文字ずつについて、その字母までを丹念に確認しました。

 写本に記されている文字を字母レベルで示すと、次のようになります。


加之己尓者比登/\・遠波勢奴越・毛止免左者
个止可比奈之・毛乃可多里/比&野・免幾三乃/免&飛・人尓・
末礼堂良無・安之多乃・也宇奈礼八・久八
之宇毛・以比遣須/川+川・幾也宇与利・安里之・
川可比乃・返寸・奈利尓之可・於保川可奈之止
天・末多・人・遠己世多里・末多・止利能・久二
无・以堂之多天左世・給部累登・川可比乃・
以不尓・以可尓・幾己恵无・免乃止与利・八之
女天・安八天末止不・事・可幾里・那之・思由留・
可多・久天・堂ゝ・左波幾安衣累遠・可乃・心・志礼留(1オ)」


 2行目の真ん中あたりにある、「ものかたりのひめきみの」という部分には、文字にナゾリがあることがわかります。
 
 
 
130810_jibonohi
 
 
 

 「ひめ(比免)」と書いた後に、「ひ(比)」の上から「野(の)」という文字をなぞっています。また、それに続く「め(免)」では、その上から「飛(ひ)」となぞっています。つまり、「ものがたりひめ」と書いた後、すぐに助詞の「の」を書き落としたことに気付き、「ひめ(比免)」の上から「のひ(野飛)」とナゾリ、そしてそれに続く「めきみの」と書き進めていたことがわかるのです。

 この写本の筆者は、間違いに気付くとすぐに修正するという、書きながら言葉の確認をする鋭い注意力を持って臨んでいる人のようです。また、上からなぞった文字をみると、この筆者が以後にもよく使う「乃比(のひ)」という字母ではなくて、あまり用いない「野飛」という字母を使っているのです。
 訂正していることを明確にするという、律儀な性格と美意識を持っている人でもあります。

 3行目2文字目の「す」の字母は、「寿」ではなくて「春」としていいようです。この二文字は、とにかく紛らわしいのです。

 4行目の真ん中で、親本には「つゝ」とあったと思われる箇所で、踊り字の「ゝ」を書き漏らしたと思われます。それについては、補入記号の○を付して、「つ(川)」の右下に小さく「つ(川)」と書いています。これも、「つ」の字母である「川」の最後の線を止めるところで、引っかかりを付け加えればいいのに、あえて補入記号を付けて「つ」を補うのです。きっちりした性格の書き手なのでしょう。

 5行目の真ん中の「葉」も、「は」の変体がなとしては特徴的な使われ方です。
 鎌倉時代の写本によく見られる特徴でもあります。

 6行目の下から3文字目の「な(奈)」は不自然な太さと形をしています。これは、ちょうどそのすぐ右横に同じ字母の「な(奈)」があることと関係がありそうです。
 普通は、同じ字母が左右に並ぶことを避ける傾向があります。それを、こうした形で回避しようとしたのかと思われます。ただし、あえて同じ字母で書写しているのは、親本の通りに字母レベルまで一緒にしようとしたかったのではないか、とも思わせます。今後の検討課題です。

 7行目の行頭の「な(奈)」と、8行目の行頭の「いふ(以不)」は、字形がそっくりです。
 
 
 
130810_jibona
 
 
 

 この書き様は、何か意味がありそうです。今、私は解決案をもっていません。最終行である10行目の3文字目の「な(奈)」も、その形が独特です。こうした特徴は、今後とも注意しておきたいと思います。

 今日は、こうした文字の確認と、書写者の性格や人柄にまで言及してみました。
 写本を読むというのは、単に文字を翻字するだけではなくて、書いた人の心の中を推し量りながら見ると、楽しい一時となります。

 次回は、9月21日(土)午後1時から、場所は同じくワックジャパンです。
 参加は自由です。一緒に読んでみたい方は、お気軽にお越しください。ただし、資料の準備がありますので、あらかじめNPO法人〈源氏物語電子資料館〉のホームページか、このブログのコメント欄を通して連絡をいただけると幸いです。
posted by genjiito at 23:22| Comment(0) | ◎源氏物語
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