銀座のカフェでウェイターをする菊村は、1人の女に好奇心を持ちます。その女の顔貌や仕草の描写には、フェティシズムに溢れた視線が満ちています。
女は小悪魔的な少女で、菊村を自在に操るのでした。菊村も、女の言いなりになり、女のことばかりを考えるようになります。
物語は、幾分推理仕立てになっているので、次の展開が楽しみでした。
美少年と美少女を引き取って育てる岡田という人物は、理屈が先行しています。しかし、谷崎はこの世界を指向していることは明らかです。谷崎らしさの萌芽と言えます。
最後の第三節は、話に集中力が見られないので、盛り上がりに欠けます。未完のままであることについては、また考えます。【2】
初出誌︰大正七年九月、十月、十一月月号「中央公論」
■「或る少年の怯れ」
家族の話です。兄嫁が亡くなってから、急に家が寂しくなります。そんな時、唱歌を歌う文化があったようです。大正八年の作品なので、これも一つの文化資料となります。また、お正月には、『百人一首』もしています。少年が見た感覚の世界が語られています。
亡くなった姉に関して、夢の中で兄と、殺したのどうのという会話をします。夢が心中を語る場となっているのです。夢の中で姉は、兄に殺されたことをどうしてだまっているのかと責められます。先の姉さんが殺されたことを知りながら、今の姉さんは兄と結婚しているのでは、との疑いからも抜けられません。人間を疑り深く見る芳雄です。
そして、そうした想念の中で最終を迎えるのでした。生死の境をさまよう様子が、よく描かれています。
なお、「しつくどく」(149頁)「むきつけ(傍点付)」(153頁)「恐(こは)らしく」(153頁)「恐(こは)らしい」(156頁)などのことばの使われ方が気になりました。【3】
大正八年八月作
初出誌︰大正八年九月号「中央公論」
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