2013年07月26日

読書雑記(74)高田郁『残月 みをつくし料理帖』

 1年半ぶりに、高田郁の文庫書き下ろしによる「みをつくし料理帖」シリーズの第8作が出ました。
 『残月─みをつくし料理帖』(時代小説文庫、ハルキ文庫、2013年6月)で、料理人である澪は健在でした。快調に再スタートです。
 ただし私には、これは作者が物語に一区切りをつけるために時間がかかり、続く物語のメドがついたので、ここで刊行したのではないか、と勝手に邪推しています。
 
 
 
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■「残月−かのひとの面影膳」
 人の死が多く語られています。時を遡り、思い出させる効果があるようです。
 そんな中で、次の文を読み、あれっと思いました。何かいつもと違うような語り口なのです。

枝分かれした道のひとつを自ら選んだ旅人は、選ばなかった道がどうだったか、思い描いたりはしない。自身が選んだ道の先を信じて、ひたすら歩み続けるしかないのだ。

 その後も、湿っぽい話題が続きます。亡き又次が呼び戻されます。
 とにかく、まずは静かにドラマの幕が上がりました。【3】
 
 
■「彼岸まで−慰め海苔巻」
 行方知れずになっている佐兵衛のことが語られます。これまでにも、小出しにして読者の興味をつないで来た話題です。今の様子が知れるにつれて、母子の情が描かれます。高田郁の世界です。
 やっと、佐兵衛は母に姿を見せます。劇的な場面です。ただし、この辺りから失速したかのように話がぼやけていきます。
 これまでのことがあるので、この中途半端なままがいいとも言えます。しかし、どうも話を作者が進めかねているように感じました。【3】
 
 
■「みくじは吉−麗し鼈甲珠」
 登場人物が少しずつ動き出します。主人公たちを背後で支えていた伊佐三の家族が、長屋を引っ越しします。
澪にまた、引き抜きの話がかかります。
 話の展開に無理が見えます。勝負事を描くのは、作者は得意ではないようです。情に走り、臨場感に欠ける傾向があります。説明が多くなり、文章がくどくなります。
 あさひ太夫との対面も、話を盛り上げなくてはという、作者のサービス精神を感じます。そんなに無理をしなくても、とも思いました。
 文章は、これまでより格段にうまくなっていると思います。ただし、構成がバラバラになっているようです。
 それでも、最後の締め方に、作者の意地が滲んでいます。【3】
 
 
■「寒中の麦−心ゆるす葛湯」
 手探り状態で進められてきた物語も、やっと落ち着きを見せます。じっくりと丁寧に、登場人物たちが描かれていきます。料理もその中にしっくりと収まっています。
 親子が気持ちを伝え、師弟が技量を伝え、それを周りが支える、というテーマがみごとに結実した章となっています。人と人のつながりが、温かく伝わって来ました。そして、みごとな最後の場面へと展開します。
 この巻で、ひとまず〈みをつくし料理帖〉の第1幕が下りた、という思いにさせられました。
 次は、新たな〈みをつくし料理帖〉で、澪の料理人としての心機一転の生きざまが語られることでしょう。
 「特別付録 みをつくし瓦版」と「特別収録 秋麗の客」で、もう満腹です。
 次巻からは、一新された物語展開が期待されます。【5】
 
 
※これまでに書いた〈みをつくし料理帖〉シリーズと高田郁作品に関する雑感を書き並べると、以下のようになります。本作は10本目ということになりました。
 
 
(1)「読書雑記(21)高田郁『八朔の雪 みをつくし料理帖』」(2010/11/25)
 
(2)「読書雑記(22)高田郁『花散らしの雨 みをつくし料理帖』」(2010/11/26)
 
(3)「読書雑記(23)高田郁『想い雲 みをつくし料理帖』」(2010/12/2)
 
(4)「読書雑記(24)高田郁『今朝の春 みをつくし料理帖』」(2010/12/4)
 
(5)「読書雑記(25)高田郁『銀二貫』」(2010/12/5)
 
(6)「読書雑記(26)高田郁『出世花』」(2010/12/6)
 
(7)「読書雑記(33)高田郁『小夜しぐれ みをつくし料理帖』」(2011/4/22)
 
(8)「読書雑記(42)高田郁『心星ひとつ みをつくし料理帖』」(2011/9/9)
 
(9)「読書雑記(48)高田郁『夏天の虹 みをつくし料理帖』」(2012/4/9)
posted by genjiito at 22:46| Comment(0) | ■読書雑記
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