早稲田駅に着くと、予報で告知されていたとはいえ、突然の大雨に見舞われました。相変わらず天気は不順です。
今日は、18時半から新宿で『十帖源氏』を読む会がありました。しかし、そちらは若手に任せることとして、私は18時から早稲田大学で開催される〈ワークショップ 『源氏物語』受容の現在〉に参加することにしました。

会場には、70人もの大勢の方々が集まっておられました。予定していた資料が大幅に足りないとのことで、主催者である陣野英則研究室のみなさんは、大急ぎで追加の印刷をなさるほど、とにかく大盛況でした。
陳野先生の司会で進行していきました。
本日のメインスピーカーであるアリエルさんは、アルゼンチンの出身です。コロンビア大学から早稲田大学に交換研究員として来日。博士論文の準備中に緑川真知子先生からの助言もあって、『源氏物語』のスペイン語訳に取り組むことになったそうです。
今回の発表は、スペイン語で進行しました。手元には配布された日本語のプリントがあり、それだけが頼りでした。スペイン語がわからない私などは、内容を理解するのになかなか大変な集まりでした。しかし、端々で交わされる日本語をつなぎ合わせながら、なんとか流れは掴むことができました。
引き続き、スペイン語訳の朗読となり、お仲間で俳優のアナ・レカルデさんがすばらしい声で披露してくださいました。
「桐壺」のスペイン語訳は、全文ではなくて3つの場面が朗読されました。
私には、スペイン語はまったくわかりません。しかし、不思議なことに、今こんな場面なんだろうな、と当たりがつくのです。抑揚が関弘子さんの朗読のように聞こえました。おもしろいものだと、興味深く最後まで聞くことができました。ことばのリズムが、訴えたいことを伝えてくれたようです。朗読に情感が籠もっていたからなのでしょう。
配付された資料によると、今回のスペイン語訳『源氏物語』では、以下の翻訳の方針で臨んだとのことです。
(1)原文を忠実にスペイン語に翻訳
(2)原文の一文を複数に切らない
(3)朗読にふさわしいスタイルや文体に調整
(4)スペイン語は主語がなくてもいいので、そのまま訳した
(5)スペイン語圏が日本語圏と直接つながるように心掛けた
コメンテーターとしてご参加の、スペイン語文学がご専門の早稲田大学の清水憲男先生は、スペイン語圏の日本文学に関する豊富な情報を披露してくださいました。特に、1941年のスペイン語訳『源氏物語』の本を取り出して見せてくださったので、その本を探していた私は驚喜しました。
世界中の31種類の言語で翻訳されている『源氏物語』は、そのほとんどを収集しています。ただし、清水先生が見せてくださった本は、私の手元にないものなので、しっかりと見ました。小さな本でした。
後で、写真を撮らせていただきました。このブログに掲載しても問題はないとのことなので、お言葉に甘えて紹介させていただきます。

質疑応答も、短いながらも楽しく展開しました。ただし、スペイン語と日本語が混在しての進行なので、聞く方も大変です。
・過去の助動詞の有無に関しては、これから考えるというおおらかさが受けていました。
・わからない場合はしょうがない、との答えで大爆笑でした。
・翻訳と解釈の問題については、異文化間での言葉の置き換えにつきまとう問題です。
今回は、「桐壺」巻のみの報告と紹介でした。とにかく、これからが楽しみです。
ちょうど会が終わった頃に、来月ペルーで刊行されるスペイン語訳『源氏物語』に関係しておられる下野さんが、お忙しい中を仕事帰りにタクシーを飛ばして会場へ駆けつけてくださいました。可能であれば、ということでお誘いしていたのです。ありがたいことです。
そして、そのまま懇親会へとご一緒しました。実は、下野さんとは初対面なのです。これまでは、メールで何度も情報交換をしていたので、実際にお目にかかれて幸いでした。
ペルーでスペイン語訳『源氏物語』が刊行されるという情報を持っておられなかったアリエルさんも、下野さんと話ができて感慨深そうでした。ペルーで刊行されるのが待ち遠しいと。
お互いが、スペイン語訳『源氏物語』を進行させていたことを知らないままに、今日の出会いがあるのですから、人と人との縁は摩訶不思議なものです。
記念に、アリエルさんとブログに載せる写真を撮ることになりました。ところが、撮影の瞬間にサッと膝を折って私の身長に合わせる配慮をしてもらえたのです。私とは、20センチ以上も身長の差があります。それを、さりげなくこうした心遣いをみせる気持ちが伝わり、本当に嬉しく思いました。

懇親会といっても短い時間だったので、翻訳に関して、一つだけアリエルさんに確認したことを記録しておきます。
『源氏物語』の「桐壺」巻の後半に、「はかなき花紅葉」ということばがあります。これをどうスペイン語に訳し、それを日本語に戻すとどうなるのかを聞きました。
スペイン語訳では
cada frivail Flor u hoja de otoño
としたそうです。
そして、それを日本語に訳し戻すと
ささいな花と秋の葉
となるそうです。
紅葉がスペインにないので、こうするより仕方がないとのことでした。
現在、『十帖源氏』の多国語翻訳のための現代日本語訳のわかりやすいものを作成中なので、どうしても聞きたいことだったのです。貴重な参考意見を教えていただけました。
アルゼンチン共和国大使館のジョシエハセガワさんと柏倉さんとも、親しくお話しができました。下野さんが関係しておられるペルー大使館とアルゼンチン大使館の連携に、スペイン語訳『源氏物語』を介して私も少しお役にたてそうです。楽しいイベントをプランニングするお手伝いをしたいと思います。
また、今年の10月に私は、「スペインにおける日本年」のイベントに招待されたので行きます。そんな話をしていたら、スペイン王立アカデミー客員もなさっている清水先生は、来年の「日本におけるスペイン年」のプロデュースをなさっているのだそうです。呼ばれて行く者と、迎えて盛り上げる方との話も、なかなか楽しいものでした。
とにかく、アリエルさんと下野さんを引き合わせることができました。
そもそもの始まりは、「今夏ペルーでスペイン語訳『源氏物語』刊行予定」(2013年6月24日)というブログでした。
これをお読みになっていた元学習院女子大学長の永井和子先生から、早稲田大学で開催される陳野先生のワークショップに関してその違いを確認されたことから、私が陳野先生に連絡をとり、アリエルさんに確認をしてもらい、ペルーで出版される下野さんに再確認し、そして今日こうして顔合わせが実現したのです。
本当に、人間のつながりのおもしろさを実感する1日となりました。
みなさんに丁寧な対応をしていただき、篤くお礼を申し上げます。
このつながりを大切にして、今後とも情報交換をする中で、さらに楽しいイベントへとつなげていきたいものです。
最後に陳野先生へ。
迅速な対応とお心遣いに感謝します。
ますますのご活躍を。
そして本日ご参会のみなさま。
今後とも、よろしくお願いします。
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