2013年07月13日

『源氏物語』の写本を読む会(初回)

 この世に存在するすべての『源氏物語』の写本を翻字し、それを整理しデータベース化して提供するための準備を始めました。

 その第1弾が、ハーバード大学所蔵の古写本『源氏物語』を読む会です。京都から始動です。
 これに関する案内は、本ブログの「世界中の源氏写本すべてを翻字するプロジェクト始動」(2013年7月 8日)に書いた通りです。

 今日の京都は、お昼過ぎに突然の豪雨となりました。そんな中を、京都御所の南にある町家ワックジャパンに集まりました。今日初めて会う方の参加があったこともあり、今後の方針などの確認から始まりました。

 まず、配布した資料の確認です。


(1)『ハーバード大学蔵 源氏物語 蜻蛉』(伊藤鉄也編、新典社、近刊予定)
 これは、現在刊行のための最終段階にある、組み版の校正打ち出しの冒頭部分です。
 上段に影印画像を、下段にその翻字本文が組まれています。
 この、鎌倉時代中期に書写されたと思われる、現存最古の1つとも言える『源氏物語』を読み進んでいくことで、写本を読む技術と異文のありようと、さらには作品の解釈を参加者と一緒にしようと思います。

(2)『国文学解釈と鑑賞別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 No.28 蜻蛉』(伊藤鉄也編、至文堂、平成15年)
 『源氏物語』を専門とする人たちだけで読み進める輪読会ではないので、各自の解釈を助けるために『鑑賞と基礎知識』シリーズの1冊を参考資料として適宜見ることにします。写本に記されたことばの諸相を丹念に拾いながら、異文にも注意を払って読むことになります。

(3)『源氏物語別本集成』のスタイルで作成した校異資料
 これは、「蜻蛉」巻に関して翻字を終えた、諸写本13本の本文の位相がわかる資料です。
 「蜻蛉」巻の冒頭部分の13種類の本文は、次のような本文異同が見られます。


かしこにはひと/\[ハ]・・・・01-052-00001
 かしこには[陽高]
 かしこには人々[国保大尾平池阿麦御個]
をはせぬを[ハ=保池]・・・・01-052-00002
 おはせぬを[陽国大尾平阿麦御]
 おはせぬを人々[高]
 おはせぬをあやしかりて[個]
もとめさはけとかひなし[ハ=国高保大平御]・・・・01-052-00003-
 もとめさわけと[陽]
 もとめさわけとかひなし[尾]
 もとめさは△とかひなし[池]
 もとめさはけともかひなし[阿麦]
 もとむれとかひなし[個]

 今回は、「ひと/\」、「あやしかりて」、「もとめさはけと」が問題となりました。


 写本の読み方に問題がないことを確認した後、諸本の異同を見ていきました。
 まず、「ひと/\(人々)」ということばに関して、[高]が「おはせぬを」の後にあることです。ここから、「ひと/\(人々)」という語句は「をはせぬを」の右横に傍記として書かれていたものが、書写伝流する過程で本行に混入したもの、という可能性が考えられます。
 傍記が当該語句の前に混入するか、後に混入するかという2パターンによって、こうした語句が倒置したかのような本文異同が確認できるのです。
 また、[個]の「あやしがりて」という語句は、諸本には見られないものです。独自異文なのです。これは、その後に「もとむれど」とあり、諸本が「もとめさはげど」とあることとも関係します。ここでは、「さわげ」という語句がないのです。
 文章としての意味は、大きくは違いません。しかし、文章の趣は大きく異なります。こうした現象は、単なる書写者の誤写や改変ということで片付くものではありません。その意味を、もっと追究する必要があります。
 ただし、今はハーバード本を読もうということがメインなので、この問題は後でまとめて考えることにしたいと思います。

 今日は、冒頭部分だけを少し読みました。
 そして、『源氏物語』の本文について考えていく上での、基本的な問題を確認しました。
 スロースタートと言えるでしょう。しかし、他の写本に記し伝えられている本文にも目を配りながら、さまざまな写本が見せる多彩な物語の内容を炙り出していくことができました。平安時代から鎌倉時代にかけて読まれていた『源氏物語』の姿を、こうして確認していきたいと思います。

 次回は、8月10日(土)午後1時から、今日と同じワックジャパンで開催します。
 興味のおありの方の参加をお待ちしています。
posted by genjiito at 22:50| Comment(0) | ◎NPO活動
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