2013年07月09日

井上靖卒読(167)「古い文字」「裸の梢」「明るい海」

■「古い文字」
 パリ留学の前後に、新婚早々の妻を呼ぶ大乃岐の話です。パリからスペインへ旅した大乃岐は、子どもがしていた首飾りの石に、古い文字が刻まれているのに気付きました。そして、インダス文字が解読できることになったのです。この若い研究者の興奮が、読者に伝わって来ます。ただし、アッカド文字とインダス文字の2種類が刻まれていることの説明がつかないのです。とにかく、宝を持って移動する男の不安な心の内が、克明に描かれています。人間は、宝物を手にすると、途端に疑い深くなるようです。自分を守るためなのでしょう。結末は劇的です。井上らしいロマンが感じられます。【4】
 
 
初出誌:文学界
初出号数:1962年12月号、続篇1964年6月号
 
文春文庫:崑崙の玉
井上靖小説全集18:朱い門・ローマの宿
井上靖全集6:短篇6
 
 
 
■「裸の梢」
 子供の頃の記憶をたよりに、子供の目線で大人を見て語っています。子供と大人が持つ世界の違いが、浮き彫りにされているのです。こなれた表現で、大人と子供の考え方の違いが、よくわかります。月光の設定がうまいと思いました。背景にうまく活かされています。
 この作品を〈2年前に読んでいたこと〉(2011年6月29日)をすっかり忘れていました。そして、『井上靖全集』を手にして読み進むままに、再度読むことになったのです。読み終わっても、そのことに気付かず、メモを見て初めて知りました。我ながら、不思議な気持ちになりました。その時の評価は【1】でした。そんなこととはつゆ知らず、今回の評価を記してから改めて思い返すと、ますます不思議な気持ちになります。作品を読むということは、状況や時の経過によって、こんなにも違うものなのでしょうか。そのことの方に、興味が湧いてきました。【3】
 
 
初出誌:週刊文春
初出号数:1963年1月7日号
 
新潮文庫:少年・あかね雲
井上靖小説全集31:四角な船
井上靖全集6:短篇6
 
 
 
■「明るい海」
 子供の目を通して、神戸の港の風景が克明に描かれています。また、おばさんの存在が、何となく不思議に語られています。さまざまな色を鏤めた描写がなされています。眩しいくらいです。また、港を見下ろす視線の角度が感じられます。いろいろと実験をしているような作品です。【2】
 
 
初出誌:文藝春秋
初出号数:1963年1月号
 
集英社文庫:冬の月
井上靖小説全集31:四角な船
井上靖全集6:短篇6
 
時代:昭和、五年頃
舞台:兵庫県(神戸)
 
 
〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 01:47| Comment(0) | □井上卒読
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