2013年06月10日

中古文学会2日目 -2013 春-

 学習院女子大学で開催された中古文学会の2日目のことです。
 ここでは、自分と関係のある発表についてだけ、思いつくままに記します。

 荻田みどりさん(立命館大学(院))には、前々日の金曜日夜に開催された北京日本学研究センターの懇談会で、初めてお目にかかっていました。中国からの留学生で『浜松中納言物語』を研究する学生さんのチューターをしているとのことでした。あらかじめ研究発表のことを知っていたので、興味深く発表を聞きました。
 タイトルは「『源氏物語』東屋巻巻末の薫の姿 ―「くだもの急ぎにぞ見えける」―」です。これまでにも『源氏物語』における食べ物に関して、多くの論文を書いておられるので、安心して聞けました。ただし、問題提起された「なぜ、上流貴族である薫が、くだものを急いで食べているかのように見える、という描写が必要だったのか。」という点について、私にはよくわかりませんでした。
 それはともかく、質疑応答での対応がしっかりしていて、これからの活躍が頼もしく思われました。

 太田美知子さん(國學院大學(院))は、日頃から何かとお話をする機会があります。よく勉強なさる方で、私の方が教えていただく気持ちで接しています。タイトルは「『狭衣物語』における『在五中将の日記』引用の背景」です。今回もドッシリと構えた発表でした。
 質疑応答の中で、【資料4】として引用された藤原行成の『権記』(寛弘八年五月廿七日条)にある「一条天皇への奏上」の記事の肝心な箇所が、実際には後に補入された文言であるようだ、との教示がありました。次の赤い文字の部分です。


仰云、可譲位之由一定已成、一親王事可如何哉、即奏云(中略)前代得失略如比、如此大事只任宗廟社稷之神、非敢人力之所及者也、但、故皇后宮外戚高氏之先、依斎宮事為其後胤者、皆以不和也、今為皇子非無所怖、能可被祈太神宮也


 そうであれば、また論は組み直されることになり、さらに興味深い論文へと仕上がっていくことになります。今回の研究発表がどのような形で論文としてまとまるのか、ますます楽しみになりました。

 午後の後半の発表からは、私が司会者の一人ということもあり、壇上で聞くことになりました。

 今回の学会の最後は、工藤重矩先生(福岡女子大学(客))の「国冬本源氏物語藤裏葉巻本文の疵と物語世界」でした。論旨が明快で、非常にわかりやすい発表でした。ただし、会場からの質問が私の期待したものではなかったこともあり、司会者として僭越ではありましたが、私から最後に一点だけ伺うことにしました。
 それは、発表の中にあった「誤写」と「誤読」ということです。特に「誤読」については、誰がという点で、2つの場合が考えられます。まず、親本を見ながら国冬本と言われる本を書写した筆写者の「誤読」による「誤写」です。もう一つは、我々が今の時点で翻字をする上での「誤読」であり、それは紛らわしい文字をどのような文字として一文字に確定して印字するか、ということになります。

 もっとも、「誤写」という判断も、誰がどのような根拠のもとに下すのか、危険な行為ですが。

 この点について、今回の発表では明確ではなかったので、確認の意味で伺いました。ただし、時間もないことなので、曖昧なままに終わりとせざるをえませんでした。このことは、また改めて確認できたら、と思っています。

 私としては、「誤写」とか「疵」と認定されたことの危うさを、確認しようと思いました。書写された文字と書写した人の筆の動きや意識には、当然のことながらズレがあります。命がけの臨書だとは思えないので、その一文字一文字を書き写す上での正確さが問題です。これは、避けがたいケアレスミスという問題でもあります。さらには、それを現代という時点で我々がその写本を読む時に、書かれた文字を一意に確定することの難しさです。変体がなは非常に柔軟性に富んだ文字です。どのようにでも読める文字であることがままあります。そこを、今の知識で読んで、今の知識でわかりやすい文字列にしていることに、問題が潜んでいると考えられます。ということは、「誤写」とか「疵」という認定は何なのか、ということになります。

 これはややこしくなるので、また別の機会にします。

 こうした研究発表を通して、若い方々が写本レベルでの本文研究のおもしろさに興味を持ってほしいと、いつも願っています。
 さて、今回がどうであったのか、折々に反応を探ってみたいと思います。

 以上、勝手なコメントを記しました。失礼な物言いがありましたら、お許しください。
 取り急ぎ学会報告を兼ねまして、駄弁を弄しました。妄言多謝。
posted by genjiito at 22:03| Comment(0) | ◎源氏物語
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