2013年05月26日

読書雑記(65)津村節子『紅梅』

 吉村昭の妻である津村節子の文章を読むのは初めてです。育子という登場人物が一体誰なのか、手探りで読み進めました。

 妻の仕事や生活を気づかう、吉村のことばが印象的でした。

あなたにも仕事があるのだから……(23頁)
君は君の生活を大切に……(28頁)
お前にはお前の生活があるのだから、(70頁)
毎日来なくてもいいよ(70頁)

 膵臓癌で全摘出後は、インスリンが出にくくなったことで、糖尿病の治療となります。この糖尿病のくだりは、私自身との関係もあり、読むスピードが上がります。毎日4回、私と同じ血糖値測定器を使った測定をする話があります。とても親近感をもって読みました。

 この作品は、私のとって非常に読みにくい文章でした。集中力が沸かないのです。途中で途切れるのです。筆者の吉村昭に対する熱意も、直には伝わってこないのです。

 恐らく筆者は、大変な中にあったことでしょう。そのためもあってか、本書では冷静さを保とうとする筆致が認められます。しかし、そこに私は筆者の覚めた目を感じました。吉村は果たして、こうした妻の対応に本当に満足していたのだろうか、と。

 そんな思いを抱くと、最後まで吉村は優しかったのだ、という思いを強くします。思いやりの吉村が、こうした行間から立ち現れてくるのです。

 舌癌に苦悶する吉村の姿から、その痛みが伝わってきました。ただし、吉村の心の内は、この文章からはうまく読み取れませんでした。人間の心の中を代弁することは、難しいのです。

 吉村の遺書のくだりは、もっと詳細に描いてほしいところでした。
 最後の、自宅に帰ってからのことです。その時にも、吉村は「お前には仕事があるんだから」(163頁)と言います。これに対して、妻は次のように思ったというのです。

本当に、小説を書く女なんて、最低だ、と育子は思った。

 読んでいて、こうした表現とこういったことを書く筆者に、非常に違和感を覚えました。何かズレているような。
 吉村と津村には、どうやら溝があるようです。失礼ながら、そんな感想を最後に持ちました。

 本書の帯には「全身全霊をこめて純文学に昇華させた衝撃作」とあります。
 
 
 

130427_koubai
 
 
 

 しかし、これが純文学で小説だとしたら、女主人公育子の発言や行動には、不用意な点が多すぎます。【1】
 
初出誌:「文學界」2011年5月号
posted by genjiito at 23:48| Comment(0) | ■読書雑記
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