2013年04月24日

森田巧氏の『全訳 十帖源氏』について

 『十帖源氏』の現代語訳が、それも「全訳」が見つかった、という連絡を、立命館大学の川内有子さんから受け、突然の朗報に私は小躍りしました。また、訳者の森田巧氏は、富士市の書店のホームページの情報などから、教育関係のご著書のある方のようだ、とのこと。

 これまでにも、いろいろな方法で、『十帖源氏』の情報を探っていました。それだけに、川内さんからのメールを見て、教えてもらったサイトをすぐに確認しました。

 静岡県立中央図書館の蔵書を検索すると、確かに森田氏の『十帖源氏』に関する本があるのです。
 
 
 
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 同じ本が2種類あります。副本なのでしょう。さらに詳細な書誌データをみると、所蔵図書の番号は異なります。
 早速、この本を図書館同志のネットワークを活用して、貸し出していただく手続きをしました。

 素早い対応をしてくださったおかげで、週末を挟んだ一昨日、その本を東京で手にすることができました。予想通り、軽装の私家版でした。

 なお、本書に関する情報は、この静岡県立中央図書館以外にはみあたりません。国会図書館をはじめ、もちろん国文学研究資料館にもないのです。よくぞ見つけてくれた、という本なのです。

 届いた2セットの本は、全く同じものでした。乱丁や落丁やがあっては、と思い、念のために副本も送っていただいたのです。
 
 
 
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 森田氏の手になる『十帖源氏』(平成3年7月)の現代語訳編の青色の表紙には、「全訳 十帖源氏」と記されています。

 左側のピンク色の分厚い本は、『十帖源氏』の江戸期版本の影印本でした。
 その序文には、これがご架蔵の本の汚損や虫食いを修正し、縮小コピーした復刻本であることが記されています。そして、その序文には次のように書かれています。


ごく最近(平成二年十一月)早稲田大学から、影印本(写真本)という形で出版されました。(私蔵のものは、京大図書館蔵系のものであります)


 この早稲田大学本のことは、「全訳」編の巻頭にも記されています。

 実は、早稲田大学本が刊行された前年の平成元年一月に、野々口立圃自筆版下本の複製本が刊行されています。「古典文庫 第五〇七冊」に『十帖源氏 上』が、同年七月に「古典文庫 第五一二冊」として『十帖源氏 下』が、吉田幸一氏によって影印本の形で刊行されていました。
 森田氏は、このことまでは調査が及ばなかったようで、ご架蔵の本の公開に踏み切られたのです。
 この森田氏所蔵の『十帖源氏』の意義は、今ではネット上で何種類もの版本の全頁画像が確認できるので、いずれ明らかになることでしょう。現在、この『十帖源氏』を容易に見ようと思えば、国文学研究資料館、早稲田大学、ハーバード大学などのサイトがあります。

 その意味では、多くの方々がお持ちの古典籍は、今後はどしどしネット上に公開していただけると、研究環境が格段に向上すると思います。

 森田氏の本ができた事情を、以下に簡単に記しておきます。

 森田巧氏は、小学校と中学校の校長をなさっていた方です。校長まで勤め上げられ、退職なさったのです。
 もともと、昭和20年代に大学の卒業論文で『源氏物語』を取り上げられたこともあり、こうした分野には理解がありました。そして、教育現場で活躍されている途中に、神田の古書店で『十帖源氏』の木版本との出会いがあったのです。それでも40年もの歳月を教員及び管理職としてご多忙な日々を過ごされた後、定年後の2年間で『十帖源氏』を読み込まれたのです。
 これについては、次のように巻末の「感謝」で述べておられます。


 月に二回ずつ私と共に、十帖源氏を読む同好の皆さん方が、懲りもせず、二年間一緒に読んでくださったことに勇気付けられ、ともかくもたどり着いたという形であります。


 本書は、森田氏にとって初めての出版という仕事だそうです。タイプライターとワープロを使った、手作りの本です。本文部分は、上下2段に組まれ、上段の翻字はタイプライターで印字され、下段の現代語訳はワープロで打たれたものです。次の図版は、「桐壺」巻の巻頭部分です。
 
 
 

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 なお、現代語訳をするにあたっては、冒頭部分で次のようにおっしゃっています。


 もともと十帖源氏は長文を縮刷してありますので、文脈を繋げる作業が必要になりました。


 つまり、原文に忠実に訳した逐語訳ではない、ということです。
 この点に注意しながら、今後とも、翻字や現代語訳について、この森田版『十帖源氏』を参考図書として活用させていただくことにします。
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | ◎源氏物語
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