2013年04月23日

新宿の中心で『十帖源氏』を読む

 今日は、国文学研究資料館の外来研究員として日本に来ている趙君が参加しました。
 漢字の表記によっては、意味がまったく違ってくることがあるので、中国の方々にもわかるかどうか、ということと、中国でなんと言うのかを確認しながら進めました。

 こうした、異文化で育った方の参加は、現代語訳を作っていく上でも確認になり、意義深い勉強会となります。今後とも、積極的に海外の方々の参加を求めていきたいと思います。

 今日はまず、「懐妊」という言葉にこだわりました。藤壺が妊娠したことを言う場面です。
 原文は「藤つぼは懐妊ゆへ参らせ給はず。」となっています。ここを、担当者は「藤壺は懐妊中なので朱雀院へは行きません。」と訳していました。
 いろいろと類語を調べても、固い漢語が多いのです。妊娠、身ごもる、身重、受胎などなど。しかし、これらも何となくしっくりときません。「おめでた」では軽すぎます。
 結局は、「藤壺は出産をひかえていたので朱雀院へは行きません。」という訳になりました。

 『十帖源氏』を全訳した本が出ている、という情報が、京都の川内さんからもたらされました。ただし、この本は静岡県立中央図書館にあるだけで、全国の他の図書館のどこにもないのです。国会図書館にも見当たりません。

 早速先方の図書館に連絡をして、東京に送っていただくように、貸し出し手続きをしました。ありがたいことに、すぐに送り届けてくださいました。

 2冊あり、一冊は『十帖源氏』の版本の影印本でした。もう一冊が、森田巧さんの全訳です。

 この本の詳細は、また後日にします。
 今日は、輪読をする「紅葉賀」巻の該当個所だけを、参考として見ました。

 上にあげた例の場合は、こんな感じです。

原文︰藤つぼは懐妊ゆへ参らせ給はず。

我々訳︰藤壺は出産をひかえていたので、朱雀院へは行きません。

森田訳︰藤壺の宮は御懐妊されたため、里に退出されておりました。

 我々の訳では、帝以外には敬語はつけないという方針のもと、原文から離れないようにしています。しかし、森田さんの訳は意訳になっています。また、敬語も正確ではありません。

 森田訳は、今日少しだけ見た範囲からではありますが、『十帖源氏』の原文の訳というよりも、元の『源氏物語』の話の流れを汲み取って、話がつながるように訳しておられるようです。
 これも、一つの現代語訳のあり方です。我々は、『十帖源氏』の本文を尊重した訳を目指しているので、当然訳文が異なってきます。しかも、海外の方に翻訳してもらうための現代語訳を心がけているので、なおさら訳文が違ってきます。

 この森田訳に関する情報がほとんどないので、そのことを意識して、これからも話題にしていきたいと思います。『十帖源氏』の最初の現代語全訳ということなので、森田巧氏に対する敬意とともに、参考にさせていただきたいと思います。

 今日は、その他に「密通」という訳語がでてきました。これは、先日の京都では「許されない恋愛」としたので、東京の場合もそれに倣うことにしました。
 東西で、可能な限り統一した方針で訳文を作る方がいいとの判断からです。

 また、『十帖源氏』は特定の人のことを訳さないのでは、という意見が出ました。作者である野々口立圃は、藤壺が好きなのではないか、などなど。
 確かに、誰をダイジェスト化にともなって訳さずにいるのか、ということを見ていくと、おもしろい傾向が見えてきそうです。
 誰のことを省略しているか、どんな場面を切り捨てているのか、などは、今後とも気をつけて見ていくことにします。
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ◎源氏物語
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]