2013年04月14日

井上靖卒読(164)「ローマの宿」「訪問者」「晴着」

■「ローマの宿」
 ローマオリンピックに新聞記者として行った時の見聞を語るものです。さすがに、ローマでの宿は大変だったようで、その苦労話です。ことばが通じない宿の老婆との悪戦苦闘は、とにかくおもしろくて微笑ましいのです。
 電気を消さない、カギをかけない、などなど、老婆は口うるさいのです。ただし、お風呂の話は笑えます。
 通訳で画家でもある宇津木に作者は、

「ヨーロッパに何年も居ると、月というものに何も感じなくなりますね。美しくも何ともなくなる。変なものですよ、月は。───強いて言えば、慾情的な刺戟でしょうか、そんなものしか感じない」(255頁)

と言わせています。井上の月に対する意識が垣間見えることばとなっています。
 最後は、通訳であった宇津木が俳優として紙面を飾る話です。井上らしいサービス精神に満ちた終わり方です。【3】
 
 
初出誌:小説中央公論
初出号数:1961年10月秋季号
 
新潮文庫 :道・ローマの宿
井上靖小説全集18:朱い門・ローマの宿
井上靖全集6:短篇6
 
 
 
■「訪問者」
 突然、書生になりたいという画学生が正木の自宅にやってきます。そして、画家である正木に、忠告をして帰るのでした。その後も、慕う気持ちからか連絡は絶えません。しかし、画家とその妻は、画学生を狂人と見なします。
 終わり方が中途半端です。1つのネタとして書かれたもののようです。【1】
 
 
初出誌:別冊文藝春秋
初出号数:1961年12月78号
 
集英社文庫:火の燃える海
井上靖小説全集30:夜の声・欅の木
井上靖全集6:短篇6
 
時代:昭和、戦後?
舞台:東京都(上野)
 
 
 
■「晴着」
 妻との約束に間に合うように夫九谷は、タクシーを使って急ぎます。こうした形での移動は、井上の作品によく描かれます。そして、決まって思うようには車は走らないのです。いろいろなトラブルがその途中で引き起こされ、禍が降りかかってきます。話がそれによって、軽妙に語られる、というパターンです。
 妻との待ち合わせ場所になかなか行けず、タクシーの運転手の娘さんが結婚式に行くのにつきあわされることになるのです。ほのぼのとした話です。タクシーの運転手が、娘さんに父親として見せる顔が目に浮かぶようで、人間の内面がうまく引き出せた話となっていると思いました。【4】
 
 
初出誌:家の光
初出号数:1962年1月号
備考 初め『盛装』の作品名で発表。後に長編小説『盛装』が発表され、『晴着』に改題。他に『晴れ着』の表記あり
 
集英社文庫:火の燃える海
講談社文庫:北国の春
井上靖小説全集30:夜の声・欅の木
井上靖全集6:短篇6
 
時代:昭和、戦後?
舞台:東京都(武蔵野、日本橋、京橋)
 
 
 
〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 23:53| Comment(0) | □井上卒読
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