2013年03月28日

読書雑記(62)瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』

 先日紹介した「ご近所小説 in 京都」に選定されていた15作品の内の、瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』(新潮文庫、平成18年11月、5刷)を早速読みました。
 残りの本については、本ブログの「京洛逍遥(265)本屋さんで多彩な京都と遭遇」(2013年3月17日)をご参照ください。

 初めて読む作者の小説です。歯切れのいい、私好みの短いフレーズが畳み掛けるように続く、軽快な書き出しです。
 女主人公が民宿でしだいに自分のことを語りだし、等身大の物語になります。奇をてらわない、明るさと軽さが同居した、自然な雰囲気が醸し出されて行きます。

 気になったことは、物語の設定が浅薄すぎることでしょうか。軽薄さが話の背景の至る所に感じられます。これが、今風と言うものでしょうか。読み慣れていないタイプの小説なので、読み進めるペースがなかなか掴めません。

 死に損なった主人公は、携帯電話の充電器がないことで、現実に引き戻されます。上手い切り返しです。
 人との別れが、さりげなくきれいに書かれています。深刻な問題なので、こうした軽めの文体がいいのでしょう。

 魚釣りや鶏小屋の掃除などなど、自然の中での体験談が綴られます。ただし、多分にミーハー気味です。自然の中に抱かれる小さな人間の存在を浮き彫りにしようと、盛んに話題を提供しようとしています。

 やがて、女主人公は自然の恵みを礼讚する日々に対する疑問が湧いて来ます。
 もっとも惜しいことに、そのことが深く掘り下げられることはありません。

 否定的な物言いが多く、人間が描かれないままに、背景だけが絵として見えた作品でした。地に足がつかないままの、自分が知らなかった世界を、傍観者として見るしかない精神的に未熟な女性は、それなりに描かれています。ただし、それだけの戯言に付き合わされたことへの読者としての物足りなさは、強く読後感として残りました。

 結局は、能天気になりきれなかった一人の若い女性の話という駄作に、数時間おつきあいさせられた、ということに留まるものでした。

 私は、「ご近所小説 in 京都」の中に選ばれている一冊として手にし、読み始めたはずでした。しかし、この作品と京都ということとのキーワードが、どうしても結び付きません。【1】
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ■読書雑記
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