2013年03月12日

井上靖卒読(160)「夏草」「高嶺の花」「波の音」

■「夏草」
 インドで自殺した元特派員の死亡記事から始まります。ただし、誰もそのことを信じていないというのです。彼は語学堪能で、海外を飛び回っていたのです。日本人離れした新聞記者でした。果たして、自殺だったのかどうか。語り手は自殺だったのでは、と言います。この話題は、さらにもっと膨らませることのできるネタです。長編の一部に使われていたのかもしれません。しかし、このような短編作品に収めたのが惜しまれます。【1】
 
 
初出誌:中央公論
初出号数:1956年8月号
 
文春文庫:貧血と花と爆弾
角川文庫:狐猿
井上靖小説全集19:ある落日
井上靖全集5:短篇5
 
時代:昭和(戦時中〜戦後)
舞台:東京都、大阪府、岐阜県、長野県、インド(ダージリン)
 
参照「ダージリン」(本作品の続編、現時点で未読)
 
 
 
■「高嶺の花」
 大阪夏の陣を背景に、1人の男が心に抱く女性をめぐる思いと行動を語ります。そして、思いもよらない行動に出るのでした。井上は、合戦という集団の描写がうまいのです。臨場感が伝わってきます。この作品も、登場人物が生きています。【3】
 
 
初出誌:小説新潮
初出号数:1956年9月号
 
角川文庫:真田軍記
旺文社文庫:真田軍記
井上靖小説全集11:姨捨・蘆
井上靖全集5:短篇5
 
 
 
■「波の音」
 昭和14年の北国でのことから始まります。多加子は6歳。夜桜の折、1人のおばさんが可愛らしいと言ってくれたのです。反対に、看護婦さんからは可愛げがないとも言われました。小学5年生の時は、リンゴのようなほっぺと言われました。自分への評価が気になる頃のことです。やがて演劇を志します。そこで知った指導者からは、自分が評価されていないことを痛感します。しかし、その男から結婚話が出てきたのです。美しいものを求める女性心理が、巧みに描かれています。そして、井上靖らしく、最後が明るいのです。作者は、女性向けの作品であることを強く意識しています。【3】
 
 
初出誌:若い女性
初出号数:1956年10月号
 
集英社文庫:青葉の旅
井上靖小説全集19:ある落日
井上靖全集5:短篇5
 
時代:昭和14年〜昭和32年頃
舞台:北国の城下街、大阪、兵庫県(舞子)
 
 
 
〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 00:03| Comment(0) | □井上卒読
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