2013年03月11日

藤田宜永通読(14)『敗者復活』

 歯切れのいい文章で、気持ちよく読み進められます。淡々とした語り口が、登場人物をリアルに浮かび上がらせています。そして、藤田宜永があのフニャフニャした恋愛ものまがいの作品を書いていた頃よりも、この語り口は活き活きした文章のように感じます。
 私が好きだった初期のダイナミックな語りが、衣替えして蘇った印象を受けました。
 場面の展開や切り替えや、会話の歯切れの良さも、見違えるほどです。

 ここには、藤田の初期作品にあった、ハードボイルドな雰囲気が蘇るタッチが感じられます。それをあえて抑制しながら書き進めているので、先を読むのが楽しくなる展開です。登場人物の感情も、きめ細かくうまく描いています。

 別れた男女と2人の間にできた息子。この微妙な関係が、うまく語られています。

 バッティングセンターの経営を巡り、その背後に蠢く黒幕の存在が、この物語を静かに牽引していきます。そして、探偵ごっこの雰囲気が、藤田の得意な世界へと読者を引き込みます。

 終盤で、「息子の生き様が文学のテーマになるとしたら、現実にはとても不幸なことだよ」(単行本、462頁)とあります。このことばは、この作品の鍵の一つだと思いました。

 最後に、取って付けたような月が出ます。もったいない設定です。藤田には、月の効果的な描き方ができないようです。

 そして、最後の方になって、無理やり話をおもしろくしようとするかのように、宗教団体の話が持ち出されます。これが、それまでの緊張感を中途半端に中断し裁ち切り、積み上げてきた物語の構造が音を立てて崩れ落ちます。興ざめで強引な取り回しとなっているようにしか思えません。
 相変わらず詰めが甘いな、との思いを強くしました。
 さらには、息子の描き方に現実感がありません。このあたりが、いくぶん消化不良の読後感を残します。

 そうしたことはともかく、本作は、まさに男の敗者復活を語っています。久しぶりに、藤田の復活の一端を読み取ることができました。

 この調子が堅持され、現今の作品につながっているのかどうなのか。今後は、この延長での作品の完成度を見ていくと、さらにおもしろい流れが追えるのではないかと、楽しみが増えた思いで読み終えました。【4】

初出誌︰『週刊アサヒ芸能』2007年9月20日号〜2009年2月19日号
単行本︰徳間書店、2009年11月30日
文庫本:徳間書店、2012年11月2日
posted by genjiito at 00:26| Comment(0) | □藤田通読
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