2013年01月19日

吉行淳之介濫読(10)『砂の上の植物群』

 吉行淳之介は、最初に発表した作品を単行本化する時や全集に収録する際に、非常に多くの手を入れます。
 そのため、この吉行の代表作でもある『砂の上の植物群』などは、大江健三郎と江藤淳が編集した『われらの文学 全22巻』(講談社)の内の一冊として刊行された『われらの文学 14 吉行淳之介』(昭和41年5月)に収録された本文を読んで行くことにします。吉行が42歳の時に編集された全集本をテキストにすることにしたことを、まずは明記しておきます。

 伊木一郎は化粧品のセールスマンです。定時制高校の教員を辞めて、今の仕事をしています。そして、推理小説の構想を楽しんでいるのです。その構想には、18年前に亡くなった父が関係しています。
 父親のことが何かと問題になります。作者の潜在意識に、父があるということです。また、伊木と京子の間には、血の濃さと父親の亡霊がブレンドされて語り進められて行きます。読者を惹き付ける、うまい展開となっています。

 登場人物である伊木が構想中の小説とその作者が、本作の中に顔を出してきて語る展開が、読み進んでいるとおもしろい効果となっています。登場人物の伊木とは違う私(作者)が間歇的に姿を見せることで、作品に奥行きが出ています。また、自作の「出口」のことまで、本作の中で言及しています。作者と登場人物が渾然一体となって、物語が進展しているのです。

 背景などの描写で、色彩表現が豊かです。本作のタイトルは、クレーの絵の題名から付けられているようです。
 この小説を一言で表現するならば、色彩がスライドしていく、と言うことができます。吉行は夕焼けを大事に点描していて、印象的な赤い色が滲んで来ます。

 中年になった男の、女に対するものの見方も克明に語られてもいます。電車の中での痴漢話はおもしろい挿話です。
 吉行の性の表現は都会的なセンスで語られます。男女がお互いの心の中を探る様子を描くタッチも、実にカラッとしています。男と女の交わりの間にも、人間のバランスを問うかのように芸術が割って入ります。吉行の作品がエロと一線を劃しているのは、こうしたところにあると言えるでしょう。

 濃い橙色の月が出てきます。吉行作品の月については、これから詳しくチェックしていくつもりです。

 なお、『星と月は点の穴』をこの『砂の上の植物群』の延長上に置いてみると、吉行の小説作法の仕組みがわかっておもしろいと思っています。それは、またその時にしましょう。
 
 
※初出誌:『文学界』昭和38年1月〜12月まで連載
 単行本:昭和39年3月に文芸春秋社より刊行
posted by genjiito at 00:12| Comment(0) | □吉行濫読
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