2012年12月15日

本日発表した研究内容のメモ

 霧雨の渋谷を小走りに國學院大學へと急ぎました。「平成24年度 第2回 源氏物語の本文資料に関する共同研究会」に参加し、研究発表をするためです。

 昨日から、発表資料を作成するのに手間取っていました。そのため、あらかじめレジメの印刷をお願いすることができませんでした。自宅のプリンタをフルに稼働させて、何とか16ページの資料を作りました。
 本文について考える時には、自ずと資料が多くなります。わかりやすいように、グラフをカラーにしたため、インクジェットプリンタが直前まで唸っていました。

 会場には、30人ほどの人が集まりました。いつもよりも多かったように思います。

 【研究・報告1】の4人目が私の順番です。

 最初に発表された豊島先生は、「蓬生」巻の16種類の本文異同を丹念に追っていかれました。その中で、本文を三つではなくて二つに分けてもいいのではないか、とおっしゃいました。この発言は、私にとっては心強いものでした。
 まだまだ検証すべき問題ではありますが、少しずつでもこうした指摘がなされることは進展です。

 私は、「ハーバード大学本『源氏物語』の改行意識」と題するものです。
 配布した資料の最初に、「はじめに」として次のように書きました。


 ハーバード大学所蔵の『源氏物語』(須磨・蜻蛉)の2帖は、鎌倉時代中期の書写にかかる貴重な古写本である。
 ここでは、その写本の改行意識を調査した結果を報告する。
 その紙面に記されている物語本文の各行末の文字列を見ていくと、どのような状態で書写されているか興味深い傾向が見て取れる。文節で切れているか、単語で切れているか、語中で切れているかの3つの場合がある。語中で切れるのは、3割ほどであることがわかる。
 古写本における書写者の心理を反映するものとして、以下に例示しながら検討を加えていきたい。
 なお、歴博本「鈴虫」(中山本)は、ハーバード大学本のツレとされている。鎌倉中期の同じ性格の古写本として、その改行意識もあげた。さらに、500文字以上の長大な異文を持つ国冬本「鈴虫」も、同じく鎌倉期の写本として確認した。併せて、院政期の「源氏物語絵巻詞書」の「鈴虫」と、室町時代の大島本「鈴虫」の改行箇所についても参考資料として取り上げている。


 レジメの後半に付した資料を見ながら、今回の意図と結論を説明しました。

 そして、これまでの私見も整理して説明しました。

 その内容は、以下のようなことです。


    一、鎌倉期書写の古写本に対する私見

 まず、これまでに『源氏物語』の古写本の調査をしてきての私見をまとめておく。

(1)『源氏物語』の古写本では、基本的に親本に書かれている通りに書写されている。
  行単位でほぼ同等の文字列として書写される傾向がある。

(2)各丁の末尾(左下)は、語彙レベルで改丁される傾向にある。
  語彙が泣き別れで書写されることは少ない。
  これは、書写ミスを避けるために、自己防衛的な心理が働いての結果ではないか。

(3)異文は、傍記本文の混入によって発生することが多い。
  現在私は、『源氏物語』の諸本に書き写された物語本文を、その内容によって、〈甲類〉と〈乙類〉の二種類に分別する私案を提唱している。
  『源氏物語』においては、本文の系統論は成り立たない。
  〈甲類〉とは、これまでに私が〈河内本群〉と称してきたグル
     ープである。そこにおいては、傍記が本行本文の直前に
     潜り込むことが多い。
  なお、本年度の研究成果として、『和泉式部日記』でも傍記が本行に混入する実態を論証できた。
  そのことも、ここに付け加えておく。

(4)今回の調査は、各丁の各行末における改行意識を明らかにするものである。
  まったくの偶然であるが、「須磨」と「蜻蛉」はほぼ同じ傾向を示した。
  文節意識は5割、単語意識は2割で、合わせて7割の箇所に語彙レベルでの認識に基づく改行意識が確認できた。
  各行末は、語句に対する意識が反映した結果が明らかである。
  特に改丁箇所では、文節意識が強く見られる。
  こうした傾向は、ツレとされる歴博本「鈴虫」においても同じことが確認できる。
  その点では、同じ鎌倉時代の写本の中でも、国冬本と絵巻詞書にはこうした意識が希薄である。
  逆に、大島本は語彙単位の意識が極端なまでに反映した書写態度が見て取れる。

 
 
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 ほぼ、予定通りに、すっきりとまとまった、きれいな論証ができた、と、自分勝手に思っています。
 質問として、行末が語中で泣き別れになっている例について、その理由を尋ねられました。
 親本を慎重に写しとろうとしたことが、その原因の一つである、と答えました。

 問題意識を共有できる方々に自分の考えを語ることは、とにかく楽しいものです。こうした機会を得難いこととして、今後とも、もっと積極的に研究成果を報告し、意見を伺いながらまとめていきたいと思います。
posted by genjiito at 23:11| Comment(0) | ◎源氏物語
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