2012年12月14日

井上靖卒読(152)「ざくろの花」「紅白の餅」「梅」

■「ざくろの花」
 井上靖が幼かった頃を題材にした短編で、よく話題にする伊豆での話です。『あすなろ物語』の舞台裏を語るものでもあります。冒頭で「六十過ぎた老婆」とあります。自分がその年齢を超えたことを思うと、これは多分にショックな表現です。本作では、自分を育ててくれたおせい婆さんへの愛情が、たっぷりと詰め込まれています。ざくろの花は、そのおせい婆さんの象徴でもあります。【3】
 
 
初出誌:オール読物
初出号数:1955年10月号
 
井上靖小説全集6:あすなろ物語・緑の仲間
井上靖全集5:短篇5
 
 
 
■「紅白の餅」
 まったく人のいい男の話です。名前が同じことをいいことに、ズケズケと就職話を持ち込み、さらには強引に仲立ちを頼むという青年の登場は、井上靖の作品によく見られるタイプの人間です。みんな気持ちがいいほどに、あけすけな性格で語られます。ズルズルと情に嵌まっていく様子が、軽妙にテンポよく展開します。人間のすばらしさや明るさが前面に出ています。最後は、さりげなく場面が修善寺に移るあたりは、井上らしいと思いました。時間に追われて仕事をしていた井上の生の心境が、この語り口の合間合間から窺えます。【3】
 
 
初出誌:小説公園
初出号数:1956年1月号
 
井上靖小説全集11:姨捨・蘆
井上靖全集5:短篇5
 
 
 
■「梅」
 時間に追われて仕事を熟していた井上靖が、自分の心境を綴ったと思われる小品です。年末年始の箱根行きは、家族へのサービスなのです。毎年同じ宿で一緒になる一家の存在が、主人公の気持ちを癒します。その一家の主人との一時が、それまでになかった時間であり、梅に目がいくほどの気持ちの余裕を与えてくれるのでした。【2】
 
 
初出紙:読売新聞
初出日:1956年1月3日
 
井上靖小説全集11:姨捨・蘆
井上靖全集5:短篇5
 
 
 
〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 23:46| Comment(0) | □井上卒読
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