冒頭から英文の引用があります。谷崎の初期の作品の特徴の一つです。この作品のテーマは、女が男にとってどれほど恐いものか、だと言います。しかし、読み進むとその趣旨は伝わってこなくなります。
伏せ字部分が各所にあり、何が書かれていたのか想像する楽しさがあります。末尾の注に「○○は初出雑誌において伏字」とあります。ただし、この伏せ字の意図が検閲とどのような関係にあるのか、今は不明です。
この作品は、発禁となったようです。しかし、この伏せ字は作者の作為によるものではないか、とも思われます。このことについては、調査や研究があるはずです。今、私にはわかりません。発禁本の研究対象の資料として、記憶に止めておきたいと思います。作品の中身よりも、その背景にある社会情勢に注意が散りました。
物語は、自分の周辺にあった出来事を綴っています。だらだらと続く話は、緊張感に欠けます。状況説明が中心で、心中描写がほしいところです。谷崎のこの時期の文章作法なのでしょうか。大体に谷崎の作品は、話を盛り上げようという傾向は見られません。意外性で読者を惹き付けようとする意図は認められます。それが、作品の印象に大きく影響しています。
この作品は、私にはほとんど心に留まるものがありませんでした。【1】
初出誌:『新小説』(大正5年8月作、発禁)
■「美男」
女なしには生きてはいけない、女に頼って生きる友人の話です。大正時代を背負った物語の背景は、今の大多数の人には理解されにくいでしょう。谷崎自身の身辺談のスタイルをとる中で、女というよりも、男の本性を炙り出そうとした作品になっています。
この作品も発禁となっています。この大正時代という背景と、この作品内容の組み合わせで発禁とは、今の私には理解が及びません。出版文化史との関わりで興味深い作品だといえるでしょう。【1】
初出誌:『新潮』大正5年9月(大正5年8月作、発禁)
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