京都、東京、千葉にある7カ所の研究所にいるメンバーが、各自の職場にあるテレビ会議システムの前に集まり、カメラとマイクに向かいながら、分割された画面に映し出された各機関の委員と会議をするのです。
確かに、1カ所に集合するために移動する時間と旅費などを考えると、節約にはなります。しかし、話し合いをした、という実感はほとんどありません。また、意見を言うタイミングを失することも多いのです。遠隔地の仲間と画面をにらめっこしながらでは、自由に発言はしにくいものです。常に自分の姿を視野に入れながら発言をするのは、ことばにしづらい違和感があります。人と人が集まって話し合う会議のようにはいきません。意見交換も、一方通行になりがちです。通信も何度か途切れました。技術的には、まだまだのようです。
便利さによって失われるものがあることを、このテレビ会議では毎回痛感します。
テレビ会議が終わるとすぐに、立川から神田神保町にある新典社に向かいました。
今日の午後は、学習院女子大学の学長を務められた永井和子先生と対談をすることになっていたからです。
『もっと知りたい 池田亀鑑と「源氏物語」第2集』では、巻頭に、永井和子先生から前田善子先生の蔵書群である紅梅文庫について伺い、その話を掲載することなっています。
私からの不躾なお願いに、永井先生は快諾してくださいました。ありがたいことです。昨日に続き殊の外暑い中を、先生は時間通りにおいでくださいました。
永井先生とは、国冬本『源氏物語』の「鈴虫」巻に長大な異文があることを私が論文に書いたところ、学会でお声を掛けてくださった時からです。それまでは仰ぎ見るだけの先生だったのですが、国冬本がうち(前田先生のところ)にあったというお話から、親しく語りかけてくださったのです。ありがたく、うれしくて、研究を続ける上での励みとなりました。
その憧れの先生と、今日は長時間にわたって、興味深いお話をたくさん伺うことができました。
前田先生の蔵書群である「紅梅文庫」の古写本に関することは、あらためて認識を新たにしました。たくさんの本が池田亀鑑のところと行き来していた点では、新たにわからないことが出て来たりして、本当に刺激的な時間を持つことができました。
さらには、前田先生のご長男と池田研二先生とは、中学・高校の同級生だったのです。
私にとっては、とにかくたくさんの収穫があった、得がたい時間となりました。このように充実した時間は、そうそう持てるものではありません。ただし、私にとって興奮する内容が、文字としてまとめたときにわかりやすく伝わるかどうかは、ひとえにこれからの編集の腕にかかってきます。私が一人で満ち足りた思いでいるだけではすまないのです。責任は重大です。
本日伺ったお話の中でのポイントの1つは、昭和7年に鈴木善子先生が前田司郎氏(永井和子先生の父上の弟)と結婚なさったことです。この昭和7年は、池田亀鑑の努力の結晶である「校異源氏物語」の稿本が完成したので、11月に蒐集した資料の一部を東京大学で展観した年なのです。
2つ目は、昭和15年に前田先生が池田亀鑑に師事するようになった時、たくさんの『源氏物語』の古写本が池田亀鑑の桃園文庫から紅梅文庫に譲渡されていることです。その背後には、古書肆弘文荘の反町茂雄氏がおられます。池田亀鑑は、前田邸に家庭教師のように足しげく通われたそうです。『校異源氏物語』が刊行されたのは昭和17年です。
3つ目は、昭和22年に前田先生が要書房を設立されたことです。終戦後まもなくのこの動きは、当時の女性の生き方を考える上で、非常に注目すべきことだと思います。そして、前田先生を中心とする文化サロンが形成されたのです。
4つ目は、昭和25年以降に反町氏の手を経て、紅梅文庫にあった多くの『源氏物語』等が天理図書館に移りました。今、天理図書館にある国冬本には、昭和27年の受け入れの印が捺されています。
つまり、池田→前田→反町の連係プレーのお陰で、今に残る貴重な『源氏物語』の古写本を、われわれは天理図書館で実際に閲覧できるのです。『源氏物語』は桃園文庫→紅梅文庫→天理図書館へとバトンタッチされ、今に受け継がれているのです。
日本の古典籍の中でも『源氏物語』に関しては、その多くがこうして守り伝えられているのです。幸せな本だといえます。
本日、多くのことを永井先生から伺いました。しかも、午前中が実感を伴わないテレビ会議だったこともあり、先生と間近に親しくお話ができたのは、本当に心躍る楽しい時間となりました。
その内容は、秋に刊行予定の『もっと知りたい 池田亀鑑と「源氏物語」第2集』に収録しますので、それまで楽しみにお待ちください。
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