今回のメモから、私がインドで『源氏物語』がいろいろな言語で翻訳されていることを知ったのは、今からほぼ10年前の2002年10月であることがわかりました。意外と最近のことだったのです。
以来、私は10点くらいあると思われるインド語訳の『源氏物語』を探し求めました。そして、2009年3月にウルドゥー語訳『源氏物語』を偶然にネルー大学図書館のチャイニーズセクションの一角で見つけたことで、足かけ6年半の間に8種類すべてを探し当てたことになります。
メモという記録装置を、私は最近見直しています。とりあえず書いておく、入力しておく、ということを心がけると、その書かれたものが時間の流れの中でしだいに意味をもちます。もちろん、なんでもないままに捨てられるメモが圧倒的多数です。しかし、いくつかのメモは、書かれなければ忘れ去られる運命にあった意味や情報を保持しているのです。それを再活用する機会が与えられるかどうかは、まさに偶然との駆け引きがあります。
その意味でも、とにかく書いておくことです。
今回の10年前のメモのように、書いた時には単なる記録だったものが、今になってみると自分の足跡を照らしてくれる記事として立ち現れてくるものがあるのです。どのメモが、いつ目覚めるか。叩き起こす必要はありません。出番がくれば、自ずと顔を出してくるのです。あるいは、見かけたらその内容に目を通せば、何らかの閃きを与えてくれるものがあるものです。
そう思うと、何げなく記しているメモが、近い将来キラリと光り輝く日が楽しみになります。
また、当時(10年前)は、情報入力機器としてソニーのクリエを使っていたことも、このメモを見て思い出しました。小さくて少し分厚い電卓のような大きさで、見かけよりも多機能で重宝しました。今の iPhone の原型とでもいうべき発想で作られたものでした。
今回の引っ越しで、クリエをはじめとする携帯情報端末はすべて処分しました。パーム機器をはじめとして、大きめの段ボール一杯分はありました。もちろん、大好きなケーブル類や機能拡張品も、別の段ボールに一杯分はありました。今、お別れの記念写真を撮っておくんだった、と思い返しているところです。
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■2002年10月27日■
◎今回の研究集会で配布された資料の中に、インドで発表された研究文献リストがあった。何げなくそれを見ていると、その中に『源氏物語』を翻訳したものが10点くらいあった。すべてが英語訳からの翻訳であるが、なんと、ヒンディー語・テルグ語・タミル語・マラヤラム語・ウルドゥ語・オリヤ語など、多彩なものである。この多さに驚きを隠せなかった。
『源氏物語』のインド各言語訳を入手することをKさんに依頼する。インドの学生さんにも、その翻訳のお手伝いをお願いした。インド諸言語訳『源氏物語』が英語訳を通してであっても、それがインドの各語にどのような変容を見せて翻訳されているのかという位相が明らかになるだろう。
私の力の限界がすぐに来るテーマなので、一緒に調査してくれる人を探そう。
◎Kさんからもらった『インド通信 第288号』に紫草の話があり、折悪しく会議中ではあったが必死にクリエ(PDA)に入力する。「むらさき草」の説明のために有効な情報である。
※〈インドの植物〉ヘリオト口ピウム ストリゴスム ムラサキ科
「その草は空き地や道端などいたるところにあった。
その草全体を、オオギヤシの葉といっしょに噛むかわりに香辛料を潰す石板でよくすり潰した。すり潰すうちに赤茶色の汁が出てきた。それをプラスチックのバケツに集め、少し水を加えてその液を綿のスカーフを染めてみた。赤茶色に染まり、それを灰汁で媒染すると、綺麗なレンガ色になった。私たちはその色をうっとりしながらながめた。草の根のよい匂いがする。しかし、その草はだれもが目にしているのに、だれもその名前を知らなかった。花の構造や葉のつき方からムラサキ科のヘリオトロピウム属に属するー年草のハティシュルに似ていることが分る。薬草の本で調ベてみると、碓かにムラサキ科、ヘリオトロピウム属に属す植物でヒンディ−語でチティ・フルと呼ばれる雑草であることが分った。民間療法ではその葉汁を目や歯茎の腫れの治療にもちいるということである。
さすがに万葉の時代から染色植物として利用されてきたムラサキと同じ科に属する植物だけのことはある。水洗いしても色落ちは少なく、インドの強烈な日光にさらしても退色はなかった。」『インド通信 第288号 2002.10.1』(西岡直樹、P3・絵あり)
◎国際会議において、ヒンディ語による発表にー区切りごとに日本語訳がついていたのは、前日と比べると大変よい改良点と言える。
◎ヒンディー語を日本語に通訳している男性は、おそろしく優秀な人である。
その日本語に多少違和感はあるが、即座にあそこまで訳せるとは、すばらしいことである。
◎会議全体を通して感じたこと。
あまりにも日本語によるコミュ二ケ−ションが少なすぎる。文学ネタも少ない。これでは、一部の多言語理解者だけの自己満足の集まりになる。日本語しかできない私のような者が参加してもわかるような日本文学の会議にしないと、この種の海外における日本文学関係の研究集会は、今後の進展は望めないように思った。あくまでも、日本文化ではなくて日本文学を対象にするならば。熱弁を無駄にしないためにも。
それにしても、インドの人たちはよく喋る。発表の内容には頓着せずに、とにかく自説を開陳する、といった趣がある。
◎今、議場へ帰ってくると、外のソファでM、S先生が歓談中だった。私もそこに混じって話に加わる。
場内の議論は白熱している。しかし、インド学においても、常識的なことに終止しているそうだ。
◎夜のデナーはパーティー。副外務大臣も来ておられる。特に司会進行があるわけではなく、ただ集まっているだけ。
伊井春樹先生とご一緒だったこともあり、副外務大臣と通訳を交えて二言三言ことばを交わした。伊井先生は流暢な英語で副外務大臣と話しておられた。日本で言う詰め襟の学生服のような服装。育ちのいい紳士という感じがした。
◎ゲストハウスに帰ってから、M先生の部屋で宴会。K、H、S先生もご一緒。
私が、今春デリー大学で行った百人一首のことが話題になった。『花のデリーで百人−首』という本を出版することで盛り上がる。S先生は大乗り気。話が大きくなりすぎて、少し困ってしまう。
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