2011年12月01日

博士論文の中間報告を聞いての雑感

 国文学研究資料館は、総合研究大学院大学の中にある文化科学研究科日本文学研究専攻という博士後期課程の基盤機関でもあります。大学のように学部や修士課程を持たない、博士(文学)の学位を取得するための博士後期課程だけの大学院なのです。
 そのせいもあって、残念ながら一般にはその存在があまり知られていません。

 現在、来年度の学生を募集しています。願書の受付は、明日、12月2日(金)から8日(木)までの一週間です。受験希望もしくは興味をお持ちの方は「日本文学研究専攻ホームページ」をご覧になり、ぜひとも受験の検討を進めてください。
 担当教員と授業科目の内容は、「授業科目」のページをご覧ください。

 さて、この日本文学研究専攻では、毎年この年の押し詰まった時期になると、研究指導を全教職員で当たることと、大学院生が博士論文の進捗状況を報告するために、中間報告論文研究発表会を開催しています。

 今日おこなわれた発表会で、私が興味と期待を持って聞いたものを、以下にメモとして残しておきます。

「草子本『さんせう太夫物語』に見る寛文期草子屋の活動」
             博士後期課程2年 林 真人

 専門外の私は、今日の発表を自由な立場で、非常に興味深く、また楽しく聞きました。

 草子本『さんせう太夫物語』は、江戸時代寛永期の正本を参照して作られた読み物だとされているようです。この草子本については、現存最古の姿を留める寛文期の与七郎本の姿がよくわかる点で、注目すべき本といわれています。ただし、与七郎本が直接の典拠ではなさそうです。

 林君の報告では、挿し絵と本文が矛盾するところがあるとのことです。例えば、草子本に「やまおかの太夫」たあるところが、絵には「むらをかの太夫」とあるなど。

 今日は、書誌・本文・挿し絵の検討を加えることで、従来ほとんどなされていなかったテーマに、資料を基にして実証的に手堅く迫っていました。その真摯な姿勢に、大いに共感を覚えました。
 ただし、もっと本自体の書誌的事項をきっちりと資料に明記してもらうと、さらに安心して聞くことができたように思います。

 また、草子屋が、本文をわかりやすく作り替えたり、挿し絵を当世風に作り替えたりしているようです。これは、『源氏物語』の読まれてきた経緯を思い合わせると、非常におもしろいテーマだと思いました。

 誰がどのようにしてお話を書き替えるのか。その工程が知りたくなりました。
 『源氏物語』においても、異本の異文は、書写者が書き写しながら物語本文を書き替えている、という方がおられます。しかし、『源氏物語』のように比較的早い時点で評価が定まった作品は、そんなに簡単に本文を書き替えながら書き写すなど至難の業です。さらに、『源氏物語』は長編物語なので、少し手を入れるとストーリーの至る所に不自然な部分が生まれます。

 そんなことを思い比べながら、今日の林君の発表を聞いていたのです。

 質疑応答でわかったこととして、この草子屋の存在は、謡曲や古浄瑠璃の草子化にもつながっていくものだそうです。文学作品の受容の問題として、これも刺激的な視点をいただきました。

 この分野では、発表資料の最後に上げてある先行研究を見ても、2000年以降の成果は塩村耕氏の『近世前期文学研究︰伝記・書誌・出版』(若草書房、2004年)くらいです。ほとんど手が着けられていなかったテーマだけに、今後の調査研究には大変な困難が伴うことでしょう。しかし、これからの研究者を目指す若者だからこそできることです。怯むことなく、まっしぐらに調べて考えることを続けてほしいと願うのみです。
 私などは専門を異にするので、何一つ言葉をかけることができません。教えてもらうことが多いのです。しかし、なかなか興味深い問題を抱える研究課題のようなので、林君の今後のますますの進展が期待されます。
posted by genjiito at 23:28| Comment(0) | ■古典文学
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