2011年11月12日

吉行淳之介濫読(9)「水族館にて」「驟雨」

■「水族館にて」
 
 登場人物は3人だけです。大学生と若い奥さんと、その夫です。
 感情の変化が、奥さんの腕の腫れとして表れるのです。
 これは、心理劇として舞台にかけるといいと思いました。
 少し理屈っぽいところがあります。しかし、すっきりとわかくやすく、読後に透明感のある世界が表現されています。【3】
 
初出誌 『婦人朝日』昭和31年
 
 
 
■「驟雨」
 
 この作品を読むのは何度目でしょうか。
 引き締まった文章と語られる世界の異質さが気に入っています。
 人を「気に入る」と「愛する」の違いがわかりやすく語られ場面があります。

その女を、彼は気に入っていた。気に入る、ということは愛するとは別のことだ。愛することは、この世の中に自分の分身を一つ持つことだ。それは、自分自身にたいしての顧慮が倍になることである。そこに愛情の鮮烈さもあるだろうが、わずらわしさが倍になることとしてそれから故意に身を避けているうちに、胸のときめくという感情は彼と疎遠なものになって行った。
 だから、思いがけず彼の内に這入りこんできたこの感情は、彼を不安にした。(新潮文庫、180頁)

 こうした彼の感性は、吉行淳之介の作品を読むときの参考になります。
 この作品では、吉行特有の不安感がよく描かれています。作者が出入りする赤線の娼婦の街では、「女の言葉の裏に隠されている心について、考えをめぐらさなくてはならぬ煩わしさがない。」(185頁)と思っています。しかし、それがそうではない女の言葉によって、動揺させられることになるのです。
 終始、男と娼婦が交わすことばがしゃれています。人間の心の中を読み取った上での作品として、よく仕上がっています。閉塞状態の空間から外へ出るときの描写が、吉行のうまさだと感じました。不安な気持ちが取り払われることになる場面です。
 最後までしっかりと読者をとらえて離さない文章が、私には心地よく感じられました。【5】

初出誌 『文学界』昭和29年2月号

※この『驟雨』は、第31回(昭和29年上半期)芥川賞受賞作です。
posted by genjiito at 23:50| Comment(0) | □吉行濫読
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