2011年10月20日

【復元】『源氏物語』の翻訳について考える

 最近、『源氏物語』の翻訳について考えることが多くなりました。
 『源氏物語』は英語に限らず、31種類もの言語に翻訳されていることは、本ブログでも何度か書いてきました。
 その翻訳とは一体何なのか、ということです。
 ことばを単純に異なる言語に移し替えるだけなら、それは翻訳ではありません。
 作品で語られる心情や文化も言い換えるのですから、そこには複雑な要素が含まれます。
 そんなことに、いろいろと思いを馳せることが多くなったのです。

 以下の記事も、クラッシュしたデータの中にあったので、ここに再現しておきます。
 
  
(※以下の記事は、平成19年3月に消失したブログの復元です。)
 
 
********************** 以下、復元掲載 **********************
 
 
2006年2月5日公開分 
 
副題「サイデンステッカー氏の翻訳談義」
 
 
 日本文学が世界文学の一分野として認知されることを願って、昨秋『世界文学としての源氏物語 【サイデンステッカー氏に訊く】』(伊井春樹編、笠間書院、2005.10.22)が刊行されました。
 伊井春樹先生の対談の名手としての本領が発揮され、サイデンステッカー氏にさまざまなことを語らせるという、収穫の多い本となっています(巻末の書影と資料提供で、私もささやかながらお手伝いをしました)。
 
 
 

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 その中から、サイデンステッカー氏が翻訳に関して語ったところを、少し抜き出してみました。


◆「川端先生と谷崎先生以外のものをやりたくないと思って、『源氏物語』の方へまわったということです。それからもう一つ、翻訳は、楽なものは退屈ですよ。難しくなければ退屈です。ですから、何か難しいものをやりたいと思ったのです。手がけてみるとたしかにその通りでした。だか(ママ)『源氏物語』をやったのは一番面白い仕事でした。」(49頁)

◆「『源氏物語』の中で「若紫」巻は一番読みやすい巻です。ですから、そういうところはやりたくないです。難しいところをやりたいと思って(笑)、宇治十帖から始めました。」(52頁)

◆「私の翻訳した巻の名前ですが、存在しないものを作り出しました。ウェリーは「Aoi」ですが、私は「Heartvine」としました。そういうものはいなのです。タチアオイということではなくて、葵祭の葵、葉っぱは今のハートの形になっている。それから、「ハート」はいろいろ関連が出るでしょう。恋愛とか哀しみとか。私の発明ですが、「Heartvine」という植物は存在しないです。割と評判がいいらしいですけど。」(65頁)

◆「「涙で枕が流れた」。それはちょっと大袈裟ですね。私は文化が違うというつもりで削ったんです。バカにされない程度に、涙の洪水を小さくしたということでした。それはいいことじゃないのかもしれません。そのまま翻訳すべきだったかもしれません。でも、今でもどちらがいいかわからないです。とにかく文化が違うから、バカにされない程度に書き直すというつもりでしたね。」(74頁)

◆「助けになりましたのは、谷崎先生と玉上先生でしたね。一番最後のところは、ちょっと円地先生のものも使いました。」(96頁)

◆「翻訳者は「贋金作り」と思うのです。つまり、できるだけ原文そのままを作る。例えば、アメリカの一ドル札を偽造して、ワシントンをもっときれいなワシントンにしたら、いい金作りではないでしょう。翻訳者もそうです。ですから、私は、翻訳を「原文よりいい」と言われるのは、褒めることばではないと思います。翻訳者はそうすべきではないです。できれば忠実に、もとのものを作るべきです。」(99頁)

◆「ウェイリーの翻訳では紫式部の言おうとしたところは通じていないと思って、やり直してみたいと思ったのです。」(103頁)

◆「私たちがやるのが「翻訳」で、日本人のやるのは「新訳」だということに、私は賛成できないです。日本人のやるのも「翻訳」ですよ。」(103頁)

◆「末松謙澄の翻訳をあまり買わないというのは、彼のやった仕事がどれくらい難しいかわからないからじゃないかと思います。非常に難しいものですよ。「外国語から」ではなく、「外国語へ」翻訳するというのは非常に難しいです。」(113頁)

◆「「完全な翻訳」は、必要ですが、不可能です。ドイツ語と英語の間でしたら、理想的な翻訳に近いものがあり得ると思います。フランス語は少し遠のく、フランス語と英語は似ていないですから。でも、ドイツ語と英語は兄弟です。その間に完全な翻訳ができるかもしれません。しかし、平安の日本語と現代の英語との間では不可能ですね。」(155頁)

 
 
 

********************** 以上、復元掲載 **********************
posted by genjiito at 22:22| Comment(0) | ■古典文学
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