2011年10月15日

読書雑記(45)森見登美彦『太陽の塔』

 森見登美彦の『太陽の塔』(新潮文庫、2006年6月、2003年12月に新潮社より刊行)を読みました。森見作品を読むのは、これで2冊目です。
 
 
 
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 前回読んだ「読書雑記(44)森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』」の後、なんとなく気になる作家です。この『太陽の塔』は、2003年に第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞したという宣伝文句に惹かれて、この本を手にしました。

 本書を読んだ後、「日本ファンタジーノベル大賞」なるものを調べてみました。今年(2011年)で第23回目になります。しかし、その受賞作のリストに、私がこれまでに読んだことのある作家は一人もいません。もちろん、受賞作も知らないものばかりです。
 あるとすれば、第1回大賞受賞作の『後宮小説』(酒見賢一)でしょうか。どこかで見たようなタイトルだという記憶だけですが。

 この分野の作品は、これまで、私が興味を示すジャンルではなかった、ということです。

 さて、本作品について。

 一女性研究の報告書というスタイルを取ることがまず宣言される物語です。


 長きに亘り、私は「水尾さん研究」を行ってきた。
 作成されたレポートは十四にのぼり、すべてを合わせると四百字詰め原稿用紙に換算して二百四十枚の大論文である。(中略)研究内容は多岐に亘り、そのどれもが緻密な観察と奔放な思索、および華麗な文章で記されており、文学的価値も高い。
 いつねんまえの十二月の時点ではまだ不完全な点が多く、より正確を期すためにはさらなる歳月が必要であろうと思っていた矢先、私は彼女から一方的に「研究停止」の宣告を受けたのであった。
 しかし、それぐらいのことで私はへこたれなかった。一度手をつけた研究を途中で放棄することは両親が許さない。幸い、私の研究能力と調査能力と想像力をもってすれば、彼女の協力を排除したうえでも研究は成り立つ。断続的に行われる彼女とのメールのやりとり、および大学内外における実地調査によって、彼女の日々の行動を私は観察し、研究を続けた。むろん、この研究の副次的な目標が、「彼女はなぜ私のような人間を拒否したのか」という疑問の解明にあったことは言うまでもない。(10〜11頁)


 見方によっては、これは明らかにストーカーレポートです。そこは文学的に「水尾さん研究」という言葉の綾で糊塗してあります。

 人間を見つめる作者の眼はするどいのものがあります。その観察眼は、よく行き届いていて感心します。それが語り口を豊かにし、おもしろおかしく展開させていくのです。

 ところが、6割方を読み通したあたりからでしょうか。急速につまらない調子になりました。
 話がだらだらとし、男が喋るシーンがあまりにも陳腐なのでしばらく後まで読み飛ばしました。
 作者をマラソンランナーに喩えると、30キロ目前で急に失速したかのようです。ただただ、惰性で走っているのに付き合わされている、という感じになり、読んでいて疲れ出しました。

 そして、水尾さんも語られなくなりました。

 ただし、ちらっと『源氏物語』という単語が眼に入ったので、そこでは何だと思って読みました。少しだけでしたが。
 水尾さんは、『源氏物語』を愛読していたようです。


・本棚には山本周五郎、谷崎潤一郎、そして源氏物語が並んでいた。私は源氏を手に取り、ぱらぱらとめくってから本棚に戻した。宇治十帖に辿り着こうとし、「えいや」とかじりついたものの読書力及ばず、何度も挫折したことを思い出した。(163頁)

・私が永遠にたどり着けない源氏物語「宇治十帖」を愛読する。(227頁)

・それともいつまでたっても宇治十帖を読めなかったのが問題であったのか、(228頁)


 それはともかく、「水尾さん研究」は途中で頓挫しています。こじつけのように、最後の最後になって、水尾さんのことが語られます。最初の意気込みから、そのストーカーまがいのレポートを楽しみにしていただけに、すっかり拍子抜けです。

 話が歪み、水尾さんという女性が描ききれず、京大生という男の生態に留まっている報告となり、中途半端なままに話が終わります。
 これが日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品なのかと、大いに失望しました。

 私には、ファンタジーノベルなるものが、どうも理解しがたいものに思えてきました。
 読む作家とジャンルを間違えたのかな、との思いで、この本を閉じました。【1】
posted by genjiito at 23:53| Comment(2) | ■読書雑記
この記事へのコメント
森見登美彦も失速したファンタジー。

太陽の塔はたしかデビュー作らしいのですが、
いまは面白いなと思う作家さんでも、やはり大変
だったんですね〜。
比較のためにも、ちょっと読んでみたい気もします。

最近、ファンタジー大賞の作品にはまってしまって
きっかけになった作品が、関俊介さん。
ワーカー改め「絶対服従者」。
虫たちの気持ち悪いファンタジーで何とも・・・。
ちなみにあんまり作者情報がないのですが、妙に詳しいサイトが
見つかっちゃいました。
http://www.birthday-energy.co.jp/
結構ご苦労されたみたいですね。
妙に動き回るとダメそうなので、作家一筋で極められるのか
試されるそうです。
ちなみに上のサイトの索引を見たら、いろんな作家さんの記事にも行き着きました。
森見さんの記事もありました。
それらも結構興味深いかも。
Posted by 友美 at 2013年01月30日 11:35
コメントをありがとうございます。
最近、また森見登美彦さんの作品を読んでいます。正直言って、あまりおもしろくありません。私に合わない作風なのかもしれません。
読み終わったら、報告します。
Posted by genjiito at 2013年01月31日 00:02
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