2011年09月05日

読書雑記(41)柏木圭一郎『京都紫野 菓匠の殺人』

 先日、「京洛逍遥(199)「紫野源水」の茶菓でいただく薄茶」(2011年8月31日)で少し触れた、『京都紫野 菓匠の殺人』(柏木圭一郎、小学館文庫、2010.9)を読み終えました。
 
 
 
110831_book
 
 
 


 非常に単純な内容なので、数時間で読めました。気の抜けるほどサラリとした殺人で、しかも深い推理の必要もなくて読みやすいものでした。ミステリーではなくて、京都のお菓子と京料理の案内をするリーフレットの趣が、この本を読み終えての印象です。観光案内所で手にしたチラシ、というイメージです。

 これは、活字で読むほどのものではなくて、テレビドラマで見て楽しむ、いわばシナリオ作成のためのあらすじと言った方が適切でしょう。ちょっとした旅の道中、時間つぶしにはいい本です。

 さて、「若狭屋源月」という和菓子屋は、大徳寺や北大路の地にあるそうなので、実在の「紫野源水」を思わせながら、少しずらした設定です。

「機音が響いていて、古びたアパートがあって、京都らしい路地ですね。」(18頁)

とあるので、堀川通りより西の西陣あたりに想定されているようです。
 タイトルに「紫野」ともあるので、紫式部の墓がある北大路堀川から西南の地域をイメージすればいいのでしょうか。

 つい、物語の背景に、実在の和菓子屋「源水」から暖簾分けした「紫野源水」を匂わせるのかと思ったのは、思い過ごしで肩すかしでした。菓子職人の世界の師匠関係に、作者はほとんど興味がないようです。

 糖尿病を患って亡くなる源衛門が、冒頭から出てきます。この名前について、私なら「源右衛門」と「右」を入れた表記にするのに、と思いました。
 さらに、こんな会話がありました。

「一般論としてお聞きしますが、何らかの薬品なりを使って、恣意的に糖尿病を悪化させることは可能なのでしょうか」
「それは可能です。何も薬品に頼らなくても、糖尿病によくないと言われている食品を積極的に摂取させれば、必然的に病状は進行します。高血糖、高カロリー食を続ければね」(75頁)
 
「それだけじゃないんです。『あおばな』には血糖値の上昇を抑える効果がある、って農家の方に教わったんです。まさに神さまが導いてくださったんだ、と思いました。少しでもお義父さまの病気が治まれば、と祈るような気持ちで『あおばな』のお茶を買って帰りました。看護師という立場から言えば、進行度から考えて、多くは期待出来ないことも理解していたのですが。藁にもすがる思い、そんな気持ちもお菓子に込めました」(120頁)

 これは、大きな間違いではないとしても、非常に不正確だと思います。しかも、和菓子には砂糖をたくさん使います。作者は、糖尿病とは無縁な生活をなさっているのでしょう。
 「あおばな」は友禅染の下絵用染料にもなります。京都と友禅については一言も出てこなかったので、今後の京都ネタでさらなる活用と展開を期待しましょう。

 また、お菓子の命名について、競い合う形になる2つの名前が『GENGETU』とか『TUKIHITOYO』とあることの評価は、読者によって分かれるところでしょう。
 ローマ字表記において、日本式(訓令式)の「TU」と、ヘボン式の「TSU」のどちらにするか、ということです。
 京都の和菓子に関してのネーミングなので、日本式の「TU」がそれらしいとの作者なりの判断があるのでしょう。しかし、国際都市京都のお菓子で「和スイーッ」というコンセプトを持たせているのであれば、海外の方が発音できる「TSU」の方が日本語音に忠実な表記となります。「TU」と表記したのでは、日本語音の「つ」とは発音してもらえないからです。

 この本を読むときには、ミステリーとしての細かな点は気にしないことです。
 京都へ向かう旅のお供として、新幹線の車中でお弁当を食べながら読み切る本です。
 〈名探偵・星井裕の事件簿〉というシリーズは、次回で第10作目となるそうです。
 手を抜かずに、もっと深く広く取材・調査をして、さらに楽しい情報を提供する作品に仕上げてほしいものです。【1】
posted by genjiito at 23:47| Comment(0) | ■読書雑記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]