クレマチスの丘は、庭園エリアと美術館エリアの2つに分かれています。今回は、美術館エリアにある井上靖文学館とベルナール・ビュフェ美術館へ行きました。
静岡県駿東郡長泉町スルガ平515-57、クレマチスの丘 井上靖文学館
井上靖文学館の入口には、和服姿の銅像がすっくと立っています。どう見ても井上靖ではないのです。
受付で聞くと、この美術館を建てた岡野喜一郎氏だそうです。みなさんから、あの人は井上靖ですか? と聞かれるそうです。入口に立つ人目を引く像なので、よく知らずに来ると勘違いしそうです。建立者には申し訳ないことですが。
門を入ると、正面に2階建の白い和風の建物が目に飛び込んできます。
左手前には、文学碑があります。1973年11月に建てられたものです。
その横に、「井上靖 生誕百年植樹(翌檜)」が植えてあります。『あすなろ物語』と関連するものです。
思うどち
遊び惚けぬ
そのかみの
香貫 我入道
みなとまち
夏は 夏草
冬は 冬濤
井上靖
入口の雰囲気が、気取りのないものでいいと思いました。
後でわかったことですが、2階にも展示室があり、そこに研究コーナーもあったようです。登り口に気づきませんでした。それとも、閉まっていたのでしょうか。この次には、ぜひともこの研究コーナーを拝見したいと思います。
受付には、いろいろと記念品が置いてありました。
『しろばんば』で、おぬいばあさんが洪作に「はい、おめざ」と言って渡す黒玉のニッキ飴が復元されていました。説明文の末尾の「読味つづけ」は誤植だと思われます。
もう一つ。これも『しろばんば』に出てくる、黄色いゼリー菓子です。
これは、井上靖文学館と豊橋の若松園が協力してできた復元お菓子です。
お菓子の由緒書きには、こう書かれています。
お菓子のケースの中には、このゼリーのいわれを記事にした「中日新聞」のコピーが入っていました(日付がないので現物は未確認ですが)。見出しには、「名作を食べる 切なく懐かしい甘さ」とあります。
記事の「メモ」欄に、こんなことが書かれています。
井上靖文学館によると、井上は執筆に際して入念な事前取材を行うことで知られる。作家として名を成してから若松園を訪れたという記録はないが「作中の詳細な記述から、お忍びで通ったかもしれません」という。
作家の取材活動と作品世界との関係を思うと、「お忍び」ということの実際を知りたくなります。
また、作品中に描かれたものを復元するという文化も、作品がこうして広く親しまれていく上からも大切にしたいものです。
この井上靖文学館の受付には、いろいろな本が並んでいました。その中に、書店経由では入手できない本が数冊あったので、今回は5冊ほどいただきました。
中でも、『わが心の井上靖 いつもでも『星と祭』』(福田美鈴、井上靖文学館、2004年6月)は、非常に興味深いものでした。
幅広い読者層に支えられた作家であることを実感します。
帰ろうした頃、受付のスタッフの方が、時間があったら井上靖のDVDを見ませんか、と親切に声をかけてくださいました。そして、井上靖がテレビで自分のことを語っている録画を見せてくださったのです。
この方は、妻が、柔道場の写真に見入っていたら、すっと寄って来て説明をしてくださいました。金沢四高時代の柔道場が明治村に移築された際、招かれ挨拶しようとした井上靖は言葉が出てこなかったということでした。壁に掲げられた額に当時の柔道部仲間全員の名前があり、井上靖を除いて全員が戦争で亡くなっていたのです。それも、病気のために井上靖だけが日本に帰国せざるを得なかったときのことだったのです。胸の詰まるお話だった、ということです。
私が受付の横にあったお菓子や本にばかり興味を示し、妻が展示に夢中になっていたので、妻の方に説明をしたくなられたようです。DVDも、妻に対してのサービスだったのかも知れません。
スタッフの方の詳しい説明と行き届いた心遣いに感謝します。ありがとうございました。
ベルナール・ビュフェ美術館を目的にして、このクレマチスの丘に行かれる方の方が多いかも知れません。
この美術館は、驚くほど多くの作品が展示されており、非常に充実した美術館でした。
私は、ビュフェのサインの変遷を一大パネルにして掲示していたことに興味を持ちました。
ドンキホーテの絵は、記憶に残る作品でした。
このクレマチスの丘には、また来ることになると思います。
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