2011年07月08日

藤田宜永通読(11)『愛ある追跡』は駄作です

 藤田宜永が『オール讀物』に2008年から9年にかけて、全4回に分けて発表した小説が、新作『愛ある追跡』(文芸春秋、2011年6月)として刊行されました。
 
 
 
110708_fujitabook
 
 
 

 雑誌に発表された時には読まなかったので、今回まとめて一気に読みました。
 読み終わってみて、これは藤田宜永の代表的な駄作であるとの思いを強くしました。
 藤田は、ハードボイルド物で華々しく活躍した初期から、しだいに純愛物へと舵を切りました。しかし、その転向で大きく躓き、そこから抜け出せないままに、本作でも持ち味を発揮できずに終わっています。
 人間は成長するはずなので、その過程を共有することを楽しみにしていました。しかし、この藤田の堕落ぶりは、どうやら私が藤田のかつてのよき時代に拘っているために、作風を変えた今の良さが見えないのでは、ということだけではすまないほどの重症のようです。今回のような文筆家とは言えない不出来な文章は、1冊にまとめるときに構成を考えながら大幅に書き直すべきだったのです。特に、第4章は目を覆いたくなるほどの愚作です。
 「連作ミステリー」と帯に書いてあることに釣られて本書を手にしてはいけません。
 私にとっては、衝撃的とでも言うべき凡作以下の連作を読まされることになりました。以下に読書の記録として、素直に思いつくままにメモを残すことにします。
 
 
■「男の総決算」
 
 殺人事件の容疑者となりながらも、「殺っていない」と言って逃亡を続ける娘を探し求める獣医師の父が主人公です。
 舞台は、横浜と渋谷。父は、得た情報から風俗に潜り込んでまでして、娘を探し続けているのです。
 近年の藤田の小説は、職業の特殊性を絡めて展開させることが多いようです。
 その仕事の内容に関連させることに注意が向き過ぎることもあり、背景の描写がスポット的となりがちです。話が小ぢんまりと手繰り寄せられる点が目立つので、読みながら物足りなさを感じます。
 藤田の小説には、じっと耐えて自分を自制する男がよく描かれています。そして、思考の中に踏み留まることで、物語を客観的に見つめる人物を設定しています。しかし、それが私にはかえって、藤田の小説を面白くないものにしているように思えてなりません。
 父親が警察に尾行されているところで、行方不明の娘とのすれ違いがあります。読者をハラハラさせて、スーッと話は萎みます。
 まずは序章というところのようです。この続きがどうなるのか、期待させます。【2】
 
初出誌︰『オール讀物』2008年2月号
 
 
■「愚行の旅」
 
 舞台は、三重県伊勢市に移ります。
 3人の男の息詰まる駆け引きは、一人の男が拳銃を持っていることで緊迫感があります。ただし、なぜこの場面に拳銃なのかは、説得力に欠けています。宮入が撃たれたことも、その原因をもっと書いてほしいところです。
 藤田らしい荒唐無稽な展開が、久しぶりに少しだけ味わえました。しかし、抑制が利き過ぎていて、読後感は消化不良のままです。
 話に膨らみがほしいと思いました。ストレートな表現で読み易い分、読者の情感に残るものが乏しいのです。
 話の展開はおもしろいので、そこに心情と情景の描写が丁寧になされていたら、と残念な思いで話の続きを楽しみに待つこととなります。【2】
 
初出誌︰『オール讀物』2008年7月号
 
 
■「じゃじゃ馬」
 
 舞台は、石川県白山市に飛びます。
 殺人の容疑者にされている娘の逃亡と、獣医である父が馬の病気を治す話が、ほとんど結びつきません。発想に無理があるのです。
 2つの話は、それぞれに面白いのです。馬の病気など、知らない知識に引き摺られながら、それで物語は、と思うと白けるのです。
 接点が見出せないままに、話は強引に収束していきます。しかも、人間関係が雑に扱われているような印象も残ります。
 第2話までのささやかな期待が、失望へと堕ちて行きました。さらには、最後はどうまとめるのだろう、という変な期待と楽しみで、連作の終章への思いを馳せます。
 なお、165頁と211頁に寒月のことが出てきます。突然自然がとりあげられるのです。この月に関する描写も、もっと丁寧に扱ってほしいと思いました。【2】
 
初出誌︰『オール讀物』2009年2月号
 
 
■「再出発」
 
 舞台は、群馬県安中市に移ります。
 娘がここでコンパニオンをしているという情報が入ったため、父はここで娘を捜すことになります。しかし、話は盛り上がらず、退屈なままに萎むように終わります。
 最後に大転回を期待していました。が、それも空振りで、結局は駄作に付き合ってしまった悔いが残っただけです。
 かつての藤田らしいパワーは望むべくもないとしても、近年の恋愛もののだらだら感すらないという、詐欺にあったような読後感です。
 藤田は私とほぼ同い年です。こんなに早く潰れてしまっては、これまで作品を楽しみにして読み、応援してきた甲斐がありません。
 一日も早く、読者を唸らせる作品が書ける作家としての復活を、今はただ願うのみです。
 娘の容疑は晴れていません。また、さまざまな不可解なことが、この1冊の本の中ではほとんど解決していません。そうだからといって、もしこの続きをさらに書き継ごうということならば、それはもう辞めた方がいいですよ、と言うしかありません。今の藤田には無理だからです。【1】
 
初出誌︰『オール讀物』2009年6月号
posted by genjiito at 23:30| Comment(2) | □藤田通読
この記事へのコメント
ここを見つけて、本当に胸のすく思いです。ずっと怒りを持ち続けてきました。ありがとうございます。
Posted by ぴきん at 2014年05月02日 16:45
コメントをありがとうございます。
藤田宜永も作風の限界を感じたのか、近作を見ると今は微調整の段階にあるようです。
人の心が描けない作家だと思っていますので、1日も早く、かつての藤田らしい、行動する人間の躍動感が伝わる作品を書いてほしい、と思い続けています。
Posted by genjiito at 2014年05月02日 17:43
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]