2011年06月27日

読書雑記(35)水上勉「雁の村」

 「雁の村」は、水上勉の代表作の1つである『雁の寺』を構成する全4部の中の、第2部にあたるものです。「雁の寺」「雁の村」「雁の森」「雁の死」の4部の第2番目になります。
 舞台は、京都から若狭に移ります。

 第1部の「雁の寺」については、「読書雑記(30)水上勉『雁の寺』」(2011年1月 7日)で書きました。この「雁の村」は、それに続く話が展開します。

 物語は、昭和11年8月から始まります。
 母親に対する息子の懐かしみが、情感をもって読む者に伝わってきます。作者の体験に根差した感情の表出だからでしょう。

 主人公である慈念には、京都の孤峯庵の慈海和尚のことが、常に胸を過ぎります。第1部で明かされた殺人を受けての、慈念の秘め事なのです。自分のしたことを調べに来たのではないかと、見知らぬ人にはまず疑念をもって見つめます。

 慈念が生まれた時の話は、それだけでドラマになります。母の哀れさがひしひしと伝わってくるからです。そして、最後に母に会います。月の夜です。男を誘う母に息を飲み、息子はそのまま行方知れずとなったのでした。

 盲目の瞽女となった母を認めたくない慈念の、この第2部のその後が気になります。【3】

 なお、「あとがき」によれば、この作品の初稿を作者は駄作だと言います。


それにしても、「村」「森」の杜撰さはひどくて、改訂にながい月日を費したのだった。
(中略)この「文庫版」発行を機に、旧版「雁の寺」四部作は絶版とすることにしたい。
    昭和四十九年六月十二日              (文春文庫、319頁)


 作者にそう言われると、かえってその駄作と烙印を押されたものを読みたくなります。
 また、そんなことも報告しましょう。

 水上勉の作品については、本ブログでは以下のものを掲載しています。
 おついでの折にでもどうぞ。
 
「読書雑記(7)水上勉『京の川』」(2008年2月12日)
 
「読書雑記(27)水上勉『湖の琴』」(2010年12月 7日)
posted by genjiito at 23:59| Comment(0) | ■読書雑記
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