2011年05月10日

小学国語教科書のごまかし

 本来は『枕草子』の絵を掲載するはずのところで、『源氏物語』の絵に差し替えられている教科書に出くわしました。ここには、編集者の意図的なごまかしがあると思われるので、問題提起としてあえて記しておきます。

 とある公共図書館の入口に、地域の小学校で今年度採択された各教科が並べてありました。自由に手に取れるように置かれています。何気なく手にした国語の教科書を、私はしばし呆然と見つめました。

 『国語 五 銀河』(小学校国語科用、光村図書、平成22年3月16日検定済)は、小学5年生用の国語科の教科書です。
 その中の「言葉」という単元に「声に出して楽しもう」という項目があります。「今も昔も」という大見出しの横に、物語絵が3枚縦に並んでおり、その真ん中の絵は明らかに『源氏絵』です。これは、『源氏物語画帖』(京都国立博物館所蔵、土佐光吉・長次郎筆、桃山時代)から「若紫」が選ばれているのです。有名な、北山において逃げた雀の子を追う若紫と、それを垣間見する光源氏を描いた場面です。
 
 
 
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 教科書では、その扉に続いて、『竹取物語』の冒頭部原文とその現代語訳が見開きで掲載され、次に頁を繰ると右側に『枕草子』の初段「春はあけぼの」、そして左頁に『平家物語』の冒頭「祇園精舎の鐘の声」の段が、ともに現代語訳を下に置いて掲載されています。

 この教科書には、最後に「学習を広げる」という項目があり、そこでは「古典の世界」として『徒然草』から「高名の木登り」が右頁に原文を、左頁に現代語訳を付けて掲載されています。

 小学5年生から古典に親しむようにしようとする、本教科書の編者の意図は伝わってきます。作品の選定も妥当かと思います。しかし、扉にあたる所に掲出してある物語絵の、『源氏物語』の絵はごまかしです。
 教科書に採択された、この後に出てくる本文に合わせるならば、ここは『枕草子絵巻』を引くべきところです。しかし、適当な絵がなかったためか、『源氏物語』の絵を持ってきて平安朝らしさを伝えることにした、ということでしょうか。

 この絵が『源氏物語』のものであり、しかも「若紫」の場面であることは、中学や高校に進学すれば授業で教わるはずなので、いずれわかることです。また、先生もこの説明をしようと思うと悩むはずです。

 なぜ、掲載する『枕草子』の文章とは違う作品の絵でごまかしたのでしょう。『源氏物語』の絵の方が有名だからでしょうか。上段の『竹取物語』の絵はもちろんのこと、下段の『平家物語絵巻 壇の浦』(林原美術館蔵、土佐左助筆、江戸時代)の絵が、この教科書で採択された作品に合致しているだけに、『枕草子』を『源氏物語』の絵に置き換えた意図の不純さに疑問を抱きます。もっとも、正確に言えば、『平家物語』の絵は、冒頭ではなくて壇ノ浦の合戦場面ですが、これはまあよしとしましょう。

 『源氏物語』が好きな私にとって、たとえ小学生のための教科書とはいえ、このようなごまかしはしないでほしい、という思いを強く持っています。ささいなことでも、うそで子供をごまかしてはいけないと思います。事実を教えることに拘ってほしいものです。
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | ■古典文学
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