2011年01月07日

読書雑記(30)水上勉『雁の寺』

 里子が障子に映った人影を見、それが誰なのかが後にわかる、として話が進みます。
 サスペンスの要素が盛り込まれている作品です。水上作品は、視覚的に美しい場面がちりばめられています。

 水上勉の作品において、月がどのように活用されているのか、私は大いに興味を持っています。雰囲気作りにおいて、有効に出てきているように思われるからです。
 本作でいえば、月光の中の慈念(新潮文庫、35頁)、月明かりの中を慈念が来る(43頁)、月の光が格子窓から差し込む部屋で寝ている慈念を里子が起こす(99頁)場面があります。
 慈念の背景に、随所で月が配されているのです。
 こんなことを心の片隅に置きながら、水上勉の作品を今後とも読み進むのが楽しみです。

 寺派の管長である老師は、行方不明になった孤蓬庵の住職慈海について、「慈海が寺を出たか。それもええではないか。あれはまだ雲衲じゃ。放っとけ、放っとけ」(103頁)と言います。
 我が家の宗派は曹洞宗なので禅宗です。私の父が亡くなったとき、お世話になった和尚さんが、これとまったく同じことをおっしゃっていました。「仏、ほっとけ」と。この悟りきった明快な爽やかさと大らかさが、残された者の気持ちを宥めてくれます。

 最終の第8章は秀逸だと思いました。緊張感が伝わってきます。慈念と里子の描かれ方が絶妙です。【3】

 この作品の舞台とされる相国寺の「瑞春院」は、「雁の寺」として知られています。
 通りかかった折に写した写真です。まだ中に入ったことはありません。
 
 
 

101226gannotera
 
 
 

 相国寺公式ホームページの中の「瑞春院」から、この小説に関係する箇所を引きます。
 

「水上 勉と雁の寺」
 直木賞作家 水上 勉氏は9歳の時、瑞春院で得度し13歳まで雛僧時代を禅の修行に過ごしたが、ある日突然寺を出奔。諸所を遍歴し文筆活動に精進。昭和36年(1961年)出版の小説『雁の寺』はベストセラーとなり名声を博した雁の寺の小説は瑞春院時代の襖絵を回顧し、モデルとしたことから瑞春院は別名を『雁の寺』ともいう。今も雁の襖絵八枚が本堂上官の間(雁の間)に当時の儘に残っている。

 
 もっとも、小説の内容から言えば、この寺にとっていいイメージとは言えません。
 『雁の寺』が昭和36年に第45回直木賞を受賞し、映画やテレビドラマとなっていることにあやかる方を優先したものといえるでしょう。
 
【映画】
監督︰川島雄三
製作︰大映
公開︰1963年1月
出演︰若尾文子(里子)
   高見国一(慈念)
   三島雅夫(慈海)
 
【テレビドラマ】
監督:奥村正彦
製作:テレビ東京、PDS
   「月曜・女のサスペンス」
出演︰かたせ梨乃(里子)
   馬渕英明(慈念)
   金田龍之介(慈海)
 
 水上勉と京都については、次のホームページが参考になります。
「水上勉の京都を歩く 相国寺界隈編」
 
 なお、「東京紅團」というホームページが、文学散歩の際の貴重な情報源となっていることを知りました。

 本を読んだ後に、ネットでブラブラという楽しみが味わえます。このサイトの、ますますの発展を楽しみにしたいと思います。
posted by genjiito at 23:47| Comment(0) | ■読書雑記
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