2010年12月21日

カラー版『尾州家 河内本 源氏物語』刊行開始

 カラー図版による影印資料『尾州家 河内本 源氏物語 全10巻』の刊行が今月から始まりました。4ヶ月毎の配本予定となっています。
 全10冊で30万円近くする上、分売はされませんので、どのようにして中身を確認するかは、各自それぞれに検討が必要かと思います。

 出版元である八木書店のホームページの「これから出る本」のコーナーから、この本の概要を引いて紹介にかえます。



最新の原本調査により源親行稿本の可能性が指摘される重要写本の全貌をオールカラーで影印!
源氏物語本文研究に新たな画期をなす必備資料!

<内容説明>
原本は名古屋市蓬左文庫所蔵(重要文化財)。

●岡嶌偉久子による厳密な原本調査により、多量にして多様な本文修正・改訂が本文書写と時期を離れないものであること、料紙準備の段階から「河内本」作成が企図されていたことが窺われ、尾州家本が河内本最古写本にとどまらず親行稿本そのものである可能性が指摘されるに至った。源氏物語本文研究深化の状況に鑑み、その要となる重要写本の全貌をカラー版で精緻に影印する。

●尾州家河内本源氏物語について
 鎌倉時代に源光行・親行父子による源氏物語本文の研究・校訂によって作成された河内本(父子ともに河内守であったことに由来)の最古写本として伝わり、54帖が揃った源氏物語の写本としても現存最古の一つである。 本文は厚手の鳥の子料紙、表紙には重厚美麗な装飾料紙を用いた大和綴の大型冊子本で、鎌倉中後期頃書写の41巻と室町前期頃書写の後補13巻より成り、元来は54巻54冊であったものを後に23冊に合綴。「夢浮橋」巻末に金沢(北条)実時の奥書があり、尾張徳川家に伝えられて現在は名古屋市蓬左文庫所蔵。重要文化財に指定されている。
 その本文には句読朱点・振り漢字が施され、全面にわたり多量の削訂・朱墨両様の見せ消ち・補入による本文修正が重ねられて複雑な様相を呈しており、精確な影印版刊行が待たれていた。


 この通称「尾州家河内本」の第1巻が、12月20日刊行分として届きました。待ちに待った本です。
 
 
 

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 直接この本を手にして調査をすることが叶わなかったので、私は展覧会などでガラス越しに見つめて来ました。今回のカラー版により、相当細部まで確認できます。

 販売促進用のパンフレットに掲載された写真は、この河内本を収める蒔絵の箱と梨子地の四段の抽斗、そして大和綴じの大きな本のありようを想像させてくれます。
 
 
 

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 この尾州家河内本に関する詳細は、本ブログの「待望の研究書『源氏物語写本の書誌学的研究』」で紹介している岡嶌偉久子さんの本でご確認ください。


 このパンフレットの写真の中に広げてある写本は、第1巻「桐壺」の巻頭部分です。そして、さらにパンフレットの中を見ると、秋山虔先生と片桐洋一先生の推薦文の下に、この「桐壺」の表紙と巻頭が印刷されています。
 
 
 

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 今回のカラー版がいかに凄いかがわかる一例をあげてみましょう。

 上の写真は「桐壺」の第一丁オモテです。この頁の後ろから3行目、下から7文字目を見てください。「ありけむ」と書いてある場所です。ここを、本来のかなの字母で正確に翻刻すると、「あ里遣む」です。ただし、この写真では、「む」という文字が少し汚れていることがわかります。

 これまでは、昭和9年に刊行された尾州家河内本で確認していました。その本のこの場所の「む」は、こんな感じで印刷されていました。
 
 
 

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 それが、今回の八木書店の本では、こんなに精細な「む」として確認できるのです。
 
 
 

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 これなら、原本にどのように書かれているのかがわかります。つまり、最初に「ん」と書いた後、その「ん」を削って、その上から「む」と書いていることが明瞭に確認できるのです。
 また、昭和9年版には、文字をクッキリと際立たせるために手が入っているのでは、と思わせる箇所も散見しています。この「む」も、不自然な整い方をしているのことがわかります。

 とにかく、写本の中に確認できる修正などの痕跡が、このカラー版では見えるのです。これは、『源氏物語』の本文を正確に翻刻することを仕事としている私にとって、待望の本です。

 大島本の写真版が角川書店から刊行されましたが、あれは白黒写真でした。その後、DVDでカラー版が出ました。これにより、その誌面に施された膨大な本文訂正の痕跡が追認できるようになりました。
 今、同じように、さらなる精細な印刷で尾州家河内本が見られるとは。
 いい時代に居合わせたことを実感しています。

 なお、上記の例に挙げた「ん」を削って「む」にしてあることは、『源氏物語大成』(池田亀鑑、中央公論社)にも『河内本源氏物語校異集成』(加藤洋介、風間書房)にも指摘がありません。また、『源氏物語別本集成』(伊井春樹・伊藤鉃也・小林茂美編、おうふう)でも、主に昭和9年版を使用して作業を行ったので、そこまでの指摘はできませんでした。
 このカラー版によって手元の翻刻本文のデータを再確認し、補訂をすすめることにします。
 正確な尾州家河内本の本文は、再点検が終わるまで、いましばらくお待ちください。

 なお、カラー版尾州家本の今後の刊行予定は、次のようになっています。
 一日も早い完結が待ち遠しい思いでいます。


第1巻 桐壷・帚木・空蝉・夕顔・若紫・末摘花〔平成22年(2010)12月〕
第2巻 紅葉賀・花宴・葵・賢木・花散里・須磨・明石〔平成23年(2011)4月〕
第3巻 澪標・蓬生・関屋・絵合・松風・薄雲〔平成23年(2011)8月〕
第4巻 朝顔・少女・玉鬘・初音・胡蝶・螢・常夏〔平成23年(2011)12月〕
第5巻 篝火・野分・行幸・藤袴・真木柱・梅枝・藤裏葉〔平成24年(2012)4月〕
第6巻 若菜上・若菜下〔平成24年(2012)8月〕
第7巻 柏木・横笛・鈴虫・夕霧・御法・幻〔平成24年(2012)12月〕
第8巻 匂宮・紅梅・竹河・橋姫・椎本・総角〔平成25年(2013)4月〕
第9巻 早蕨・宿木・東屋〔平成25年(2013)8月〕
第10巻 浮舟・蜻蛉・手習・夢浮橋〔平成25年(2013)12月〕
posted by genjiito at 23:50| Comment(0) | ◎源氏物語
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