■「恋を知る頃」(三幕)
丁寧なト書きと会話の巧みさによって、読んでいても場面がよくわかります。舞台が鮮やかにイメージできるのです。
谷崎自身を投影した伸太郎が、生き生きと描かれています。それを取り巻く人々も、 うまく描き分けています。
やがて、驚愕の結末が訪れます。おきんの存在にスポットライトが当たり、幕となります。
うまい構成になっています。【4】
初出誌︰『中央公論』(大正2年5月号)
■「春の海辺」(三幕)
話の展開がややモソモソしています。三枝春雄の性格から来る煮え切らなさが、物語展開に関係しています。
妻梅子の役所は難しいと思いました。どこまでが本当かわからないように、長い台詞が続きます。
友人の吉川も、演技派が担う役所です。人間の心の裏を見せないようにして、話が進んでいくのです。裏がないのに、さもあるかのように演じるのですから……。
それだけに、作者のうまさが感じられます。
最後は、あまりにも優等生的で、やや拍子抜けです。私なら、ここで吉川が梅子にささやいて幕にするところですが……
この一ひねりがないところに、谷崎の若さというよりも、物足りなさを感じながら読み終えました。これが実際に演じられたら、この点はどうなるのでしょうか。演劇の台本を読むのと、それが上演されたものを観るのと、2つの楽しみが得られる作品と言えましょう。【3】
初出誌︰『中央公論』(大正3年4月号)
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