2010年10月31日

京洛逍遙(168)知恩寺の古書市で井上靖自選集を買う

 今年も秋の古本まつり(古本供養と青空古本市)が、京都大学の北側にある百万遍・知恩寺で開催されています。今年は、10月30日(土)から11月3日(水)までの5日間です。
 
 
 

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 古本供養には間に合いませんでしたが、京都古書研究会加盟の内の16店には、すべて顔を出しました。
 とにかく、烈しく眼球運動を繰り返した2時間でした。
 
 
 

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 今年の収穫は、この知恩寺境内ではなくて、百万遍の交差点に近い古書店の店先で見つけた、井上靖の『日本名作自選文学館 猟銃 他二十三篇』(680頁、昭和47年、ほるぷ出版)でした。
 この本は、大きさといい、背から表紙にかけて皮を貼った装丁といい、1953年(昭和28年)〜1956年(昭和31年)に刊行された『源氏物語大成』(全8巻、中央公論社)を思わせるものです。
 箱は立派な布貼りで、挿絵と装幀は加山又造、題字は井上靖です。ズッシリと重さが伝わってきます。皮に痛みはありますが、それを払拭するほどの存在感がある本です。
 
 
 

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 セット販売の本なので、なかなか入手できませんでした。これと同じ内容で装幀も同じ本が、昭和59年に13000円で発行されています。しかし、こちらのセット本の方を探していたのです。
 これが今日、なんと500円だったのです。反射的に、すぐ買い求めました。

 巻末に、編者であり作者である井上靖の自選解題「二十四の小石」があります。
 その中で、この自選集は「二十三年間に生み出した百七、八十篇の短編の中から、漠然と、まあこれくらいならと思う作品を拾」(677頁)ったものだとあり、「私が愛着を持っている作品である」と書いています。

 試みに、この2年前に編まれた『自選 井上靖短編全集』(1100頁、昭和45年、人文書院)と今日手に入れた『日本名作自選文学館 猟銃 他二十三篇』とを較べると、『自選 井上靖短編全集』に収録された70編の中から20作品が選ばれていることがわかります。残る4作品は、「天正十年元旦」(昭和30年)と、『自選 井上靖短編全集』の中でも最新作品の「褒姒の笑い」(昭和39年)以降に発表されたものです。
 つまり、昭和45年に自分が愛着のある作品としたものに対して、その2年後に「天正十年元旦」を追加した、ということになるのです。
 自選という枠は、なかなか難しい判断が含まれます。作家の成長と共に、自分の作品に対する愛情が変化することは当然でしょう。昭和47年に井上靖が選んだ24作品の中にあえて追加された「天正十年元旦」は、作者にとっては大きな意味を持つものと言えるでしょう。

 実際、「二十四の小石」の中でも、「不出来にしか生めなかった作品であっても、今だに何とかして世の中に押し出してやりたいという気持ちを払拭できないでいるものもある。」(676頁)といっています。自作に対しては、作者なりにさまざまな思いがあるようです。

 なお、「二十四の小石」の後半で、短編「洪水」について「活字になってからも削ったり加えたりした。」と言っています。
 井上靖は推敲にあたって、どれくらい手を入れているのか、非常に興味があります。
 井上靖は多作タイプの作家なので、書き上げてからさらに作品を練り直す時間的な余裕は少なかったはずです。多少の字句の加除はあっても、それがどの程度、表現のレベルにまで及んでいるのか、いつか調べてみたいと思っています。
 すでに『星と祭』については、朝日新聞に連載していたときから単行本に収録した時点で、どのような手が入ったのかを調べだしています。いずれ、その調査結果をまとめたいと思っています。
 さしあたっては、「洪水」がどの程度なのか、早速確認するつもりです。

 午後は、しだいに雨が強くなりました。古書市では、オークションが中止となったようです。
 明日以降は、ぜひ雨が上がって、1人でも多くの方が古書に親しんでほしいものです。
posted by genjiito at 22:10| Comment(0) | ◎京洛逍遥
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