2010年05月28日

充実した3人の研究発表

 国文学研究資料館のプロジェクトの一つである基幹研究「王朝文学の流布と継承」の、本年度第1回研究会がありました。

 今日は、次の3人の発表がありました。いずれも、刺激的でした。


(1)森田直美(国文学研究資料館 機関研究員)
 「近世後期における平安朝物語の図説化 ―装束関連の書を中心に―」

【要旨】近世後期には、『源氏物語』を中心とした平安朝文学にあらわれる、装束・調度・建築物等を図示し、注解を施した書が多く著された。本発表ではこれらの中から、特に装束関連の書を数点取り上げ、中世に成立した物語注釈の、有職書としての性質に注目が集まり、やがて近世中・後期に至って図説されるようになってゆく過程の一端を辿る。

(2)福田景道氏(島根大学 教授)
 「『弥世継』と『月のゆくへ』 ―歴史物語の継承と再生―」

【要旨】『水鏡』―『大鏡』―『今鏡』―『増鏡』と連なって日本通史を形成する鏡物系歴史物語の系流には、『今鏡』と『増鏡』との間に十数年間の間隙があり、その空白を散佚作品『弥世継』が埋めたと考えられている。しかし、それを否定する徴証も指摘できる。本発表では、@『弥世継』の標題をもつ高山市郷土館蔵『増鏡』とA欠落期間を補うために明和8年(1771)に著作された『月のゆくへ』(荒木田麗女作)とによって、歴史物語系譜の変容について考察する。

(3)山本登朗(関西大学 教授)
 「講釈から出版へ ―『伊勢物語闕疑抄』の成立―」

【要旨】『伊勢物語闕疑抄』は、宗祇から三条西家に伝えられた伊勢物語学の集大成として高く評価され、幅広い影響を与えた注釈書であり、細川幽斎の自跋には、智仁親王に対する講釈のためにまとめたものであると明記されている。しかし、その内容と成立にはなお問題が残されている。本発表では、書陵部に残されている智仁親王の当座聞書などを手がかりに『闕疑抄』の成立事情を探り、その真の姿を考察する。



 毎回、いい勉強をさせてもらえる研究会です。今日もそうでした。最新の情報で、今思うところが語られる会なので、元気がでます。みなさんの日頃の研究がジックリと伺えるので、研究することの楽しさの一端もお裾分けに預かれるのです。

 トップバッターの森田さんは、先週の中古文学会に続いての研究発表です。
 精力的に成果をあげています。頼もしい限りです。
 
 
 
100528morita
 
 
 
 近世後期において、物語の中の装束に関して図説化がなされる現象を、『源氏男女装束抄』『源氏装束図式文化考』『源語図式抄』などを引いて検討を進めていました。江戸時代後期の図説書は、物語の読解のために供されたものであることを指摘するところに、視点の新しさを感じました。
 装束に関する画像情報の流れをわかりやすく考察する姿勢には、安心して聞いていられます。
 また、質疑応答に対しても、落ちついて対処していました。
 私も、最後に、京都で装束を扱う職人さんたちが使う下絵や図様に関連する質問をしました。
 今日の例に挙がっていた装束図は、職人さんたちの世界にあった図案集などから引いたものではなかったのか、ということです。着物のデザインや図柄のための絵が、物語の装束の説明に参考資料として使われているのでは、ということです。これにも、しっかりと答えていたので、今後の展開がまた楽しみです。

 作品を読み解くのではなくて、その周辺にある事象から作品に切り込んでいく手法です。作品理解のための基礎研究です。
 建築と絵巻をテーマとする赤澤真理さんとともに、今、国文学研究資料館には、こうした基礎的な研究を大事にしている人が、少なくとも2人はいます。
 これからの活躍が、ますます楽しみな若手研究者です。
posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | ■古典文学
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