2010年03月30日

源氏絵を寝殿造から見た好著

 若手の元気溢れる研究書『源氏物語絵にみる近世上流住宅史論』(赤澤真理、中央公論美術出版、平成22年2月)が刊行されました。カラー図版が10点、白黒図版・写真が170点と、とにかく目で読ませてくれる本です。資料性が高く、手堅い実証を目指している点で、私好みの本です。

 この本は、赤澤真理さんが博士論文をまとめて刊行したものです。題名が固くて、内容をイメージしにくいかと思われます。これは源氏絵を見ながら、住宅建築を通して未知の成果に連れて行ってくれます。寝殿造から書院造へ、そして数寄屋風書院造へと変容した源氏絵の住宅像が、やがてもとの寝殿造へと復古していく流れを体感させてくれます。難しく言えば、「十二世紀前半から十九世紀まで描き継がれた源氏物語絵の住空間の変遷に着目した研究」(6頁)ということになります。

 わかったようでわからなかった寝殿造が、この本を読むと不思議とわかった気になります。折しも、京都新聞で先週まで2回にわたって、寝殿造についての最新の研究成果をもとにした問題点が取り上げられていました。建築物は、発掘によって新しい知見や確認ができるので、おもしろいテーマです。それを、源氏絵から追いかけて見ようというのが、赤澤さんのユニークな視点です。

 序章で、これまでの研究史がを要領よくまとめられています。本書の視点と結論が明確なので、見通しの利くスタートが切れます。全体的に、要所要所でまとめながら考証が進むので、読者としては負担が軽くて助かります。最後に、本書の各章ごとのまとめがあるので、読んだ後の頭の整理になります。
 あるいは、この結論を記した5頁分(193頁〜197頁)から読み始めるのもいいかもしれません。
 私は、赤澤さんの博士論文を事前に読んでいたので、よくまとまった本だと感嘆しきりでした。しかし、はじめてこのテーマに接する方は、この結論から読むのが一番いいようにも思います。

 とにかく、『源氏物語』を読み、源氏絵を見る時の基礎的な知識と問題点を与えてくれる本となっています。

 野々口立圃の『十帖源氏』所収の六条院の図の問題点(155頁)については、さらに検討を要する問題が内在しているように思います。これについては、後注で「中近世における『源氏物語』の注釈書を通した寝殿造理解については今後検討を進めたい。」(177頁)とあり、更なる課題としておられるようです。これは、今後とも考察を深めて、いろいろと教えてほしいところです。特に私が今、『十帖源氏』(『おさな源氏』)の多言語翻訳に取り組んでいることもあり、こうした絵に関連したことがらは、海外の方ともコラボレーションしやすいので、赤澤さんに期待するところです。

 1つだけ本書に対して、私としては注文があります。それは、索引です。
 私は、研究書は索引が必須だと思います。もう一度読み返したり確認するときの、道案内となるのが索引だと思うからです。もう一度読む価値のない読み捨ての本には、資源の無駄なので索引は不要です。
 その点では、本書の付録には、「主な本書対象史料の図版索引と参考文献」という、10頁にもわたる痒いところに手の届く索引と、簡単ですが的確な「『源氏物語』帖別索引」があります。また、「本書対象の源氏物語絵帖別居所一覧表」も、場面ごとの源氏絵のありようが容易にわかり、何度も書棚から取り出してお世話になる資料となる本です。
 そうであるからこそ、「人名索引」と「書名索引が」あれば、もう完璧だったのではないでしょうか。さらに欲を言えば、「事項索引」も。
 よかったら、簡単なリーフレットにしてでも、希望者に配布してもらえたら、本書の利便性はさらに高まることでしょう。PDF にしてネットでダウンロード、という手もあります。ご検討を。

 本書の構成は、次のようになっています。
 読む価値のある本として、お薦めします。

序章
第一編 近世源氏物語絵に表出された上流住宅像
 第一章 寝殿造から書院造への変容
 第二章 数寄屋風書院造への変容と寝殿造への復古
 第三章 寝殿造の復古的理解の定着
第二編 古代寝殿造への復古表現を支えた考証課程
 第四章 住吉如慶・具慶の物語絵にみる古代寝殿造への復古
 第五章 絵師が編纂した住宅史料にみる復原考証の確立
 第六章 住宅史研究の萌芽
結論
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | ◎源氏物語
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