2009年10月09日

源氏私見(1)写本の傍記混入で異文が発生

 昨日あった研究会で、自分の中で問題意識として持っていたことの一端を、研究発表の形で提示しました。
 これから年末まで、5つの研究発表をすることになっているので、自分が混乱しないためにも、備忘録としてここに記しておきます。

 「平安文学における場面生成研究プロジェクト」というものが、国文学研究資料館の中にあります。
 これは、 《物語の生成と受容》 と題して、すでに4冊の報告書を刊行しているものです。

 今回は、第11回目の研究会でした。
 メンバーは、沖縄・京都・静岡などから集まった、新進気鋭の若手研究者が中心となっています。
 折しも、台風が通過した直後でもあり、いつもよりも参加者は少なかったのですが、いいディスカッションができました。

 まずは、私の「傍記混入の実態から見える源氏物語諸本の位相−「初音」「常夏」の場合−」と題する1時間弱の基調報告の後、質疑応答と共同討議をおこないました。

 その内容は、今年度の報告書に掲載されますので後日確認していただくこととして、ここにはその内容の柱だけでも記しておきます。

 まず、「はじめに −これまでの本文研究史と個人研究の成果−」として、「源氏物語本文研究略史」と「個人研究の成果」を印刷したレジメを見てもらいました。
 これは、時間の関係でほとんど説明は割愛しましたが……。

 続いて、以下の項目について、研究成果として報告しました。

  一 大島本「 初音」における異文注記の本行への混入
    [大島本の影印資料をもとにして、大島本が本行に混入させた「一本」は前田家本が校合に用いた一本であることを証明]


091009hatune15

(角川書店刊行のDVDより画像の一部分を引用掲載)
 
 
  二 傍記混入による異文の伝流
    [第26巻「常夏」の諸本を2つの類と群に分別する私案の提示]
     〈甲類〉[国尾御高天平]群
     〈乙類〉[大麦阿池肖日伏穂前]群
          [陽保]群
    (これは、昨秋以来新たに提案している、『源氏物語』の本文2分別私案の1つとなるものです。
     そして、次の特徴が確認できました。

      ■〈甲類〉は、傍記後入のパターンを見せる。
      ■〈乙類〉は、目移りによる脱落後の文を伝える。
      ■陽明本と保坂本は、〈乙類〉の中でも別群である。

     こうして検討する巻を重ねる中で、『源氏物語』の諸本の位相が明らかになっていくはずです。)
 検討に用いた資料は、次の3点でした。

  資料(1) 二分別の典型的な例
  資料(2) 陽明本と保坂本の独自な位相
  資料(3) 三段階の混入

 最後にあげた、傍記が三段階にわかれて混入していくのではないか、という仮説には、次のような例を提示しました。


   [国尾高天平大麦阿池御肖日伏穂前] ナシ[国尾高天平御]  [国尾高天平御]
        (1)ちかきかはの     ーーーーーーーーーー (3)せうようし給に
  ◎あゆ (2) (1) いしふしなとやうの 物をまへにてゝうして まいらす[陽保(麦阿)]
      (2)おまへにててうし[国尾高天平御阿]

 ◎の行が、最初に書かれた物語の本文だったとします。
 ここに、(1)の傍記が記された写本が出現し、それがいつしか本行の中に混入していきます。
 次に、(2)のような傍記が記された写本も出現し、それがいつしか本行に混入します。
 そして、(3)のような傍記がなされた写本が出現します。
 これについては、本行のことばか傍記のことばか、いずれかが取捨選択されて写し伝えられて来たのではないか、と考えてみました。

 こうした過程を経て、いくつかのパターンの異文が発生した、という仮説を提案してみました。
 諸本の本文異同をここにあげるゆとりがないのでわかりにくいと思いますが、おおよそこんな視点から本文の変化を考えてみたわけです。

 ここでは詳しくは書けないので、来年3月に刊行される報告書をご覧ください。

 なお、今回の考察で使用した諸本は、次の18本でした。

     底本 源氏物語(陽明文庫蔵)
   『新源氏物語別本集成』
     大 源氏物語 大島本(古代学協会蔵)
     保 源氏物語 保坂本(文化庁蔵)
     国 源氏物語 国冬本(天理図書館蔵)
     麦 源氏物語 麦生本(天理図書館蔵)
     阿 源氏物語 阿里莫本(天理図書館蔵)
     尾 源氏物語 尾州家河内本(名古屋市蓬左文庫蔵)
     絵 源氏物語絵巻断簡(書芸文化院蔵)
   『源氏物語別本集成 続』
     池 源氏物語 池田本(天理図書館蔵)
     御 源氏物語 御物本(東山御文庫蔵)
     肖 源氏物語 肖柏本(天理図書館蔵)
     日 源氏物語 日大三条西本(日本大学蔵)
     伏 源氏物語 伏見天皇本(古典文庫)
     穂 源氏物語 穂久邇文庫本(穂久邇文庫蔵)
     前 源氏物語 前田本(尊経閣文庫蔵)
     高 源氏物語 高松宮本(国立歴史民俗博物館蔵)
     天 源氏物語 天理河内本(天理図書館蔵)
     平 源氏物語 平瀬本(文化庁蔵)
posted by genjiito at 20:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ◎源氏物語
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