2009年09月30日

井上靖卒読(92)『しろばんば(前編)』

 古書店で、こんな本を見つけました。
 
 
 
090929sirobanba1表紙
 
 
 
 本の中は、こんな感じです。
 
 
 
090929sirobanba2
 
 
 
 『ポケット日本文学館 14 井上靖 しろばんば』(講談社、1995年9月)

 総ルビ、カラー挿絵、セピア色の傍記傍注の本です。小学生低学年から中学生向けの本のようです。読書感想文用の本なのかもしれません。注釈は、小田切進が担当しています。

 この物語は、大正初期の伊豆の山村が舞台となっています。作者の自伝でもあります。
 当時の学校の先生は、とにかく厳しかったようです。怒鳴ったり、殴ったりと、とにかく怖い存在です。
 そして、子どもたちはよく石を投げています。人に向かっても。
 こうした教育は、今の教育観からはどう評価されるのでしょうか。現今の教育と違いすぎるので、教育評論家の意見を聞きたくなります。

 五感を使って育っていく子どもたちが活写されています。目線が子どもにあるので、読者の誰もが経験したことを思い合わせながら読んでいけます。

 共同湯には、男も女も裸で入っていたようです。いろいろな場面で、どうも、イメージが浮かびません。時代性を背負った作品です。
 恥ずかしいことに、私は信玄袋を知りませんでした。注記に添えられた絵で、これがそうだったのかと思ったくらいです。
 頭注や傍記が、ときどき理解を助けてくれました。古文ならいざしらず、内心複雑です。
 「左官屋」の説明などでは、新鮮な驚きを覚えました。

壁を塗る職人。しゃかんともいう。宮中の修理に、仮に属(さかん)の位を与えて出入りをゆるしたところから、この名があるという。(238頁)


 注は、背景を成す文化や歴史に及んでいて、これにも目を通すと厚みのある読書体験ができます。

 この作品には、一緒に暮らさなかった作者の両親に対する気持ちの一端が、各所に語られています。
 別れて暮らす母を慕う主人公洪作の心理が、うまく描かれています。母との距離が微妙です。

 巻末で、さき子がこっそりと部落を出るシーンの月光が、とにかく美しく瞼に残ります。

 私は、これでおわりだと思っていました。
 ところが後で、これはまだ『しろばんば』の前半部分で、後半が残っていることがわかりました。

 この前編部分がこのポケット日本文学館に収録されたのは、読者が子どもたちであることからの配慮のようです。【4】



初出誌︰主婦の友
連載期間︰1960年1月号〜1962年12月号
連載回数︰36回

新潮文庫︰しろばんば
旺文社文庫︰しろばんば
井上靖小説全集25︰しろばんば・月の光
井上靖全集13︰長篇6



映画化情報
映画の題名︰しろばんば
制作︰日活
監督︰滝沢英輔
封切年月︰1962年11月
主演俳優︰島村 徹、芦川いずみ


〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読
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