2009年06月11日

「薄雲」の断簡が一堂に

 実践女子大学の香雪記念資料館で開催中の、文芸資料研究所創立30周年記念展覧会「源氏物語 薄雲の世界 −新出資料を中心に−」を見てきました。



090525jissenポスター


 この展示は、『源氏物語』の第19巻である「薄雲」の古写本のなかでも、河内本と呼ばれる本の断簡(冊子がバラバラに解体された状態で現存するもの)を中心とするものです。
 現在の所、20枚ほどが確認されています。それらのほとんどが、数枚のパネル写真を含めて一堂に会しています。圧巻です。

 今回は写真で展示されていますが、国文学研究資料館が所蔵する巻名歌のある丁1枚は、古書籍商の所へ脚を運び、現物の確認をして購入してもらったものです。あの時は、インドから客員研究員としてお呼びしていたアニタ先生と大内英範君を同道したことを思い出します。

 今回の展覧会の着眼点は、非常に興味深いものです。
 一人でも多くの方に、この空間を共有してもらいたいと思います。

 入口で配布されている『実践女子大学所蔵優品録一 実践女子大学所蔵 源氏物語関係古典籍図録1』という冊子(86頁)は、写真と翻刻と解題による構成で、目配りの利いた労作です。




090611jissen2解説図録



 上の図版は、スキャナで取り込んだ際にモアレが目立ってしまいました。
 現物は、きれいな若草色です。
 後日、図版を入れ替えます。しばらくは、これでお許しください。

 また、展覧会の手引きとも言える6頁のリーフレット「源氏物語 薄雲の世界を みるために」も、わかりやすくてよくできています。




090611jissen3リーフレット



 この2種類の資料をもらうだけでも、脚を運んだ価値は十分にあります。
 6月21日(日)まで開催されています。あと10日ほどです。

 河内本という本は、一体何なのでしょうか。
 改めて、考えさせられました。
 私は、『源氏物語』の本文は2種類に分別されると思っています。
 それを昨年から、〈甲類〉〈乙類〉と呼ぶことにしています。
 この〈甲類〉というのは、これまで〈河内本〉と言っていたものを中心とするグループに該当します。
 これまで、〈いわゆる青表紙本〉や〈別本〉と呼んでいたものが〈乙類〉と言えばいいでしょうか。
 そんなに簡単に分けられませんが、池田亀鑑の〈いわゆる青表紙本〉〈河内本〉〈別本〉という3種類に本文を系統分類する70年以上の呪縛から一度解放するためにも、あえて名称を〈甲類〉と〈乙類〉に分別する私案を提示したしだいです。『源氏物語』の本文研究をリセットすることを提唱しているところです。

 それにしても、〈河内本〉と呼ばれている一群の本文群については、さらなる解明が急務です。
 國學院大學の豊島秀範先生の元で、平瀬本を中心とした〈河内本〉の総合研究が進んでいます。
 中京大学の〈河内本〉とされる本文群や、七亳源氏と呼ばれる本など、尾州家本や高松宮本に加えて、検討すべき本はたくさんあります。
 一人でも多くの若い学徒の参加を得て、さらなる研究が進展することを願うのみです。

 その意味からも、今回の実践女子大学の展覧会は、『源氏物語』の本文についての問題意識を共有するためにも、ぜひとも見ておくべき貴重な本文資料の公開です。

 本展示を実現なさった、実践の横井孝先生と上野英子先生の展示準備のためのご苦労を察しつつ、改めて感謝しながら展示屋を後にしました。
posted by genjiito at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | ◎源氏物語
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