2009年01月30日

『錦絵で楽しむ源氏絵物語』の勧め

 『源氏物語』の内容をわかりやすくまとめた本として、『錦絵で楽しむ源氏絵物語』(岩坪健編、和泉書院、2009.1)が刊行されました。これは、非常によくできた本です。


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 見開きの左頁に、江戸時代(19世紀中頃)に出版された多色刷りの木版画(錦絵)を配し、右頁に各巻の内容を千字以内で、わかりやすくまとめています。
 取り上げられた錦絵は、歌川豊国(国貞)筆の『源氏絵物語』で、東京都立中央図書館加賀文庫のものを、すべてカラー写真で掲載されています。

 本書には、初心者のためのいろいろな工夫があります。
 まず、ルビが多いことに好感を持ちました。これなら、これから『源氏物語』を読もうとする人も、固有名詞や有職故実などの、日頃あまり目にしない文字にたじろぐことなく、安心してお話に耳を傾けられます。
 あらすじの文章は、なるべく人名を使わない方針で書かれています。とはいうものの、たくさんの人名で解説せざるをえません。それでも、そのほとんどに、固有名詞などにはていねいにルビが付けられているので、余計なことに神経を使わずに読み進められるのです。
 この配慮は、意外と一般の方々には受け入れられるのではないでしょうか。

 巻の解説も、要領よくまとまっています。一つの巻に千字弱の字数なので、十分に説明がなされています。あらすじとか梗概というものは、帯に短し襷に長し、という例が多かったように思います。本書のように千字弱というのは、普通に読んで2分位なので、なかなかいい長さです。

 そして、本書の説明文がわかりやすいのは、具体的に読む人の助けになる情報が盛り込まれているからだと思います。
 例をあげてみましよう。

 第13巻「明石」の説明で、「須磨から明石へは、約八キロメートルしかありません。」(34頁)とあります。
 また、第22巻「玉葛」では、長谷寺までは「京都から七十二キロメートルもありますが、信心深さを示すため、歩いて行くことにしました。」(52頁)という説明になっています。また、その左頁の錦絵の下にある絵の説明にも、「本堂へは、約四百の石段を登る。」とあって、そのありようがよくわかる表現がなされています。

 本書は、とにかく初心者のためには、たいへんよくできた『源氏物語』のお話を理解するための案内書です。
 ただし、一つだけ私の感想として物足りない点があります。
 それは、絵の上部に書かれた和歌を、左右頁の真ん中に翻字し、その意味をわかりやすく解いてあるのですが、ここはもう一歩踏み込んで、変体がなで書かれた和歌の翻字を、書かれたかなの字母を生かした表記になっていたら、もっとよかったのでは、ということです。つまり、ここで正確な翻字を示されていると、かつての人たちが書き継いで来たかな文字を読む練習ができるからです。
 せっかく目の前の錦絵の中に、昔のかな文字が書かれているのです。
 ここで、変体がなを読む機会が提供されていてもよかったのでは、というのが、このよくできた本に対する唯一の私の要望です。

 もし改訂版を出されることがあれば、ぜひとも和歌を正確な翻字にされることを熱望します。
posted by genjiito at 23:45| Comment(2) | TrackBack(0) | ◎源氏物語
この記事へのコメント
校祖・新島襄が愛好した梅花が咲き始めましたころ、いかがお過ごしでしょうか。
 先日、和泉書院から連絡があり、小著が掲載されましたことを知りました。
簡潔ながら、的を得たご批評で、感服いたしました。
とり急ぎ、御礼申し上げます。時節柄ご自愛ください。
Posted by 岩坪 健 at 2009年02月06日 20:11
わざわざ、ご丁寧に恐縮します。

 いい本ですね。

 解説がわかりやすくて、お人柄を感じさせます。

 たくさんの方が手にされらたいいな、と思い、勝手なことを書きました。
Posted by genjiito at 2009年02月06日 22:18
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