2008年11月01日

源氏千年(69)「古典の日」宣言を両陛下の前で

 今日11月1日を「古典の日」にしよう、ということで、京都では大きなイベントがありました。

 そもそも源氏物語の千年紀とは、『紫式部日記』の寛弘5年(1008)11月1日の記事に、紫式部が家庭教師役として仕えた藤原道長の娘彰子が敦成親王を生んだ五十日の祝いの席で、藤原公任が「このわたりに若紫やさぶらふ」と言ったことが記載されていることによるものです。

 このことから、『源氏物語』に関する記録の最古のものとして、今年の今日を記念しようということになったのです。

 ちょうど千年前の今日、ということで、京都は大いに盛り上がっています。

 今日は国立京都国際会館で、「源氏物語千年紀記念式典」が開催されました。

 天皇、皇后両陛下もご出席になるということで、会場は満員でした。
 別会場では、モニタで式典の様子を中継していました。
 出席者は、2400人とか2800人ということなので、一大イベントです。

 今日の式典では、源氏物語千年紀のイメージキャラクターを務めている女優の柴本幸さんが、十二単姿で「古典の日」宣言を読み上げました。
 しっかりと力強く、引き締まった宣言でした。

 両陛下が同じ壇上においでの場面でもあり、今日の11月1日を「古典の日」にしようということで法制化を望んでいる人々には、効果的な演出ともなっていました。
 つまり、国民の祝日にしよう、というものです。
 文化勲章を受章されたばかりのドナルド・キーン先生の講演や、塩谷文部科学大臣の来賓挨拶などがあったので、祝日法案に乗せる準備は整ったといえましょう。

 11月1日を古典に親しむ「古典の日」にしよう、という趣旨の宣言がなされたわけですが、その宣言文がネットに見当たりません。
 しかたがないので、本日会場でいただいた資料をもとに入力してみました。




「古典の日」宣言

 『源氏物語』は日本の古典であり、世界の古典である。
 一千年前、山紫水明の平安の都に生まれたこの作品は、文学はもとより美術、工藝、またさまざまの藝能に深い影響を及ぼし、日本人の美意識の絶えることない源泉となってきた。一九三〇年代に英訳されて以来、近年では二十余の外国語に翻訳されて、世界各地の人々に愛読され、感銘を与えている。
 この物語について『紫式部日記』に記された日から数えて一千年。この源氏物語千年紀を言祝いで、私たちは、今後十一月一日を「古典の日」と呼ぼう。
 古典とは何か。
 風土と歴史に根ざしながら、時と所をこえてひろく享受されるもの。人間の叡智の結晶であり、人間性洞察の力とその表現の美しさによって、私たちの想いを深くし、心の豊かにしてくれるもの。いまも私たちの魂をゆさぶり、「人間とは何か、生きるとは何か」との永遠の問いに立ち返らせてくれるもの。それが古典である。
 揺れ動く世界のうちにあるからこそ、私たちは、いま古典を学び、これをしっかりと心に抱き、これを私たちのよりどころとして、世界の人々とさらに深く心を通わせよう。
 そのための新たな一歩を踏みだすことを、源氏物語千年紀にあたって、私たちはここに決意する。
 紫のゆかり、ふたたび。
 平成二十年(二〇〇八年)十一月一日
              源氏物語千年紀よびかけ人
              源氏物語千年紀委員会




 なかなか力強い宣言文です。
 日本は、歴史と伝統のある、文化国家です。
 その中で、「古典とは何か」という問い掛けは、非常に大事なことです。

 新聞各社とも、「揺れ動く世界のうちにあるからこそ、私たちは、いま古典を学び、これをしっかりと心に抱き、これを私たちのよりどころとして、世界の人々とさらに深く心を通わせよう。」というフレーズを引用した記事を書いていました。

 日本のことが理解できず、日本のことが説明できないのに、国際化と言って英語教育を最優先課題とする考え方に、私は反対しています。まずは、日本語の運用能力を高め、日本文化をしっかりと学ぶべきでしょう。

 その意味からも、この「古典の日」はぜひ国民の祝日として、みんなで伝統や文化について考える日にしたいものです。

 ただし、この宣言文の中には、一点だけですが、私には理解できないことが書かれています。
 それは、「一九三〇年代に英訳されて以来、近年では二十余の外国語に翻訳されて、世界各地の人々に愛読され、感銘を与えている。」という箇所です。

 『源氏物語』が英訳されたのが「一九三〇年代」ということは、これは誰のどの翻訳を指しているのでしょうか。

 『源氏物語』の翻訳史をまとめておきます。
 1930年代というと、以下の翻訳書が確認できます。


1930 昭和5 【オランダ語】Ellen Forest(Arthur Waley訳)『HET VERHAAL VAN PRINS GENJI』Van Holkema and Warendorf

1932 昭和7 【英語】Arthur Waley『源氏物語(The lady of the boat)』「匂宮〜宿木前半」

1933 昭和8 【英語】Arthur Waley『源氏物語(The bridge of dreams)』「宿木後半〜夢浮橋」

1935 昭和10 【英語】 Arthur Waley The tale of Genji George Allen & Unwin / Random House



 これはすべてアーサー・ウェイリーの翻訳書です。この宣言文が言う「一九三〇年代に英訳されて以来」というのは、アーサー・ウェイリーの英訳のことを言っているようです。しかし、翻訳史を見ると、それまでにもいろいろなものがありました。



1882 明治15 【英語】末松謙澄『源氏物語』「桐壺〜絵合」

1911 明治44 【ドイツ語】(Suematsu)(Inada, H. I., Bibliography of translations from the Japanese into Western languages from the 16th century to 1912. Tokyo: Sophia University Press, c1971による)

1925 大正14 【英語】Arthur Waley『源氏物語(The tale of Genji)』「桐壺〜葵」

1926 大正15/昭和元 【英語】Arthur Waley『源氏物語(The sacred tree)』「賢木〜松風」

1927 昭和2 【英語】Arthur Waley『源氏物語(A Wreath of cloud)』「薄雲〜野分」

1928 昭和3 【英語】Arthur Waley『源氏物語(Blue trousers)』「行幸〜幻」

       【フランス語】Kiku Yamata『源氏物語』「桐壺〜葵」

       【スウェーデン語】 Alkman, Annastina (Waley) Genjis roman Bokforlaget Natur och Kultur



 アーサー・ウェイリーの英訳の完成は1933年ですが、その前から順次刊行されていました。

 それよりも何よりも、末松謙澄の『源氏物語』の翻訳が明治15年(1882)であることを忘れてはいけません。
 もちろん、末松訳は全訳ではなくて、第17巻「絵合」までです。
 しかし、『源氏物語』の外国語への翻訳という場合には、この明治15年(1882)の末松謙澄の例をあげるのがもっとも適切ではないかと、私は思います。

 別会場では、書籍販売のコーナーがありました。
 そこでは、『源氏物語』をテーマにしたマンガや雑誌が多数並べられていました。
 国文学研究資料館の特別展示図録である『源氏物語 千年のかがやき』も、平積みされていました。
 嬉しくなり、手に取って見ました。格別の手応えがありました。

 私の目を惹いたのは、フランス語版の大型本(3冊セット)でした。重さが10キロもする本です。定価は、今日のレートで36,855円でした。
 また、徳川美術館の光則画帖も箱入りで1点だけあり、値段は367,500円でした。

 明日からは、3日連続で「源氏物語国際フォーラム」が組まれています。
 全日参加しますので、また様子を報告します。
posted by genjiito at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ◎源氏物語
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