2008年10月10日

井上靖卒読(46)『河口』

 井上にはめずらしく、多情な女が主人公です。しかし、上品で爽やかさがあり、女性の心の動きをわかりやすく描いています。この李枝を引き立てているのが、仕事を手伝う館林です。いい組み合わせです。

 後半の、奈良と京都の旅は、現地を知り尽くしている作者ならではの描写だと思います。さりげなく書いていますが、当地に住んでいた、そして住んでいる私には、その場所がうまく描かれているのに感心ながら読みました。
 奈良と京都との雰囲気の違いが、本当にうまく描き分けられています。

 最後の話の盛り上げ方も、少しずつトーンが上がるようになっていて、これもうまいと思いました。

 女主人公は、自分勝手に見えます。しかし、それがこうして自分で生きようとする女性の一面として、巧みに描かれているのです。
 男の身勝手さと、女のわがままが、程よくぶつかり合う話です。

 そんな展開の中で立ち回る館林は、実によくできた男として、理性的な一人の人間として、語られています。作者の分身であり、このような男が、井上の作品には欠かせません。

 最後に、前向きな姿勢で生きようとするところは、井上の作品の明るさの表明です。
 明日へのエネルギーを読者に感じさせて、河口が持つイメージを読者に見せて終わります。【3】



初出誌︰婦人公論
連載期間︰1959年1月号〜1960年5月号
連載回数︰17回

角川文庫︰河口
井上靖小説全集12︰満ちて来る潮・河口



映画の題名︰河ロ
制作︰松竹
監督︰中村登
封切年月︰1961年7月
主演俳優︰岡田茉莉子、山村聡


参照書誌データ:井上靖作品館
  http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 00:48| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読
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