2008年08月29日

源氏千年(58)横浜美術館・源氏展の内覧会

 横浜美術館の「特別展 源氏物語の1000年 ―あこがれの王朝ロマン―」が、明日から開催されます。
 8月30日から11月3日までの長期間です。
 それに先立って、関係者を集めた内覧会が、本日催されました。

 立川から館長とともに電車で行きました。立川から横浜までは、各駅停車の電車で行きます。意外に早く、90分ほどで到着です。
 東急東横線のみなとみらい駅を出ると、目の前に美術館があります。
 ここは、これで3度目です。外観が周りの環境に馴染んでいるので、近代的な建物です。しかし、これから見る『源氏物語』という古典文学とは、大きな落差を感じました。明るすぎるように思ったのです。

 横浜美術館館長、中田横浜市長、NHK会長などのオープニングのお祝いのスピーチは、適度な長さで続きました。もちろん、社交辞令の言葉なので、聞き流せるものでした。おそらく、『源氏物語』などほとんど読んだことのない方々です。褒め言葉にも、何となく作文の匂いを感じるのは、致し方ないところでしょう。


080829yokohamag開会式


 とくに会場を沸かすスピーチもありません。『源氏物語』がテーマでは、自分とも、日常の話題ともかけ離れているので、惚けるわけにもいかないのです。なかなか難しいスピーチを要求される場です。

 一通りの挨拶が終わると、来賓の高円宮妃とお嬢さんのテープカットがありました。
 私は、前の方からiPhoneで写真を数枚撮りました。すると、会場の整理係の女性が私の前にやってきて、プレス以外の方は写真撮影はご遠慮ください、と言われるのです。
 なんということもない状況なのに … 。対象が皇室関係者だからでしょうか。肖像権の問題なのでしょうか。
 公人が公的な行事に参加しているのを撮影するのは、何がいけないのでしょうか。
 報道関係者は、事前に書類を出しているからいいのでしょうか。よくわかりませんが、とにかく、すぐにiPhoneを引っ込めました。
 ということで、ここには高円宮妃のテープカットのシーンは省略します。

 今回の楽しみは図録です。現在、私は源氏展の図録を作成中なので、とにかく早く見たかったのです。


080829yokohamag2図録


 内容は、京都文化博物館の方が充実していました。しかし、この図録は、近代の絵画が多いので、これも貴重な情報です。
 会場内は、加賀美幸子さんのナレーションを聞きながら回りました。ヘッドホンタイプのハンディーな機械を首からぶら下げて歩きました。
 分かりやすい解説でした。加賀美さんの声は、本当に古典の解説に向いています。やさしく語りかける口調がいいですね。作品を見ながらでも、じゃまになりません。

 私は、『源氏物語』の古写本の展示が一番気になりました。

 陽明文庫本の説明では、「主に別本系」の写本だと言っておられました。台本の作者は不明ですが、「別本系」は不適切です。ライターの方は、古い本を見て原稿を作成されたようです。
 大島本については、藤原定家が「手を加え整えた」写本だと言っておられました。「手を加え」というならば、さらに「言葉を削った」ということにも触れるべきだったと思います。そして、どちらかというと、定家は言葉を積極的に削ったと、私は思っています。削ることも、確かに手を加えることです。それにしても、大島本に関してこのような説明が流れるのは、『源氏物語』の本文研究が着実に進んでいることを示していると思います。

 本日の展示は、次の巻々がケースの中にありました。

 ・陽明文庫本(10/1まで)12須磨 14澪標 15蓬生 19薄雲
 ・大島本(9/17まで)  45橋姫 46椎本 47総角
 ・尾州家本(10/1まで) 32梅枝・33藤裏葉 34若菜上 

 これが、後半(10/3〜11/3まで)には、次の巻に入れ替わります。
 見たい巻がある方は、お気をつけください。
 ただし、尾州家本の34若菜上は、後半のはずが、本日は展示されていました。
 なお、大島本は3期にわかれています。

 ・陽明文庫本(11/3まで) 9葵 21少女 22玉鬘 28野分
 ・大島本(9/19〜10/11まで)48早蕨 43紅梅 50東屋   
 ・尾州家本(11/3まで)  34若菜上

 ・大島本(10/12〜11/3まで)44竹河 52蜻蛉 53手習   


 今回は、源氏絵も楽しみでした。

 ・出光-源氏物語画帖(9/17まで) 22玉鬘以下8枚
 ・徳川-源氏物語画帖(10/1まで) 5若紫 30藤袴 50東屋 53手習


 源氏絵は、これでもか、というほど出品されていました。

 会場の後半は、近世以降の注釈書や近現代の源氏絵ばかりで、サーッと流して見ました。
 私にとっては、前半がよかったので、後半は雑然とした感じがしました。
 新しいところが好きな方には、この後半がいいのでしょう。

 この源氏展は、一般の方々が対象であることもあり、やや統一がとれていないように感じました。京都文化博物館の方が、圧倒する力がありました。
 また、展示も図録も、説明が不親切なように感じました。
 図録には、国文学研究資料館館長のミニコラムが、何と5本も掲載されています。
 巻頭にある54巻の物語内容のダイジェストは、館長の書き下ろしです。
 それでも、各出品作品の情報が少ないのです。
 また、なぜその巻が、その部分が展示されているのか、意図がわからないものが多くありました。このあたりの説明が、どこかでなされていたら、見る人々はもっと充実感を持つことになったように思います。

 さて、10月からの国文学研究資料館の展示は、どのような評価がもらえるのか、今から気になり出しました。


 なお、9月3日から2ヶ月開催される宇治市源氏物語ミュージアムの「源氏物語千年紀特別展 写し伝える美―陽明文庫の源氏物語―」が、数日後にスタートします。
 今年は、『源氏物語』にとっては幸運な年です。
 たまたま自分がその仕掛ける側にいるために、その中に浸って楽しめないことが、一番の心残りです。
 それでも、少しでも多くの『源氏物語』に接してみたいと思います。
posted by genjiito at 23:52| Comment(4) | TrackBack(0) | ◎源氏物語
この記事へのコメント
初めて書込みます。よろしくお願ひいたします。
昨日横浜美術館の「源氏物語の1000年」特別展を見学しました。感想をこちらに書かせていただきます。
エスカレータを上つたところの最初の掲示の「紫式部日記」の一節(現代語訳つき)に「うかがいたまふ」とあり、また最後の部の掲示の「桐壺」冒頭の一節(朗読音声つき)に「あまたさぶらひたまいけるなかに」とありました。どちらも大きな掲示です。「歴史的仮名遣」で本文を表示するのが常識ですが、それをまちがへて、最終日まで訂正もできずにゐるとは。事情があつて、わざとやつてゐるのかもしれませんが、驚きました。
平成20年11月4日
Posted by 逸記 at 2008年11月04日 23:09
コメントをありがとうございます。

横浜美術館は、一般の方々を対象とした展示をなさっているので、それを意識して、歴史的かなづかいでの表記を避けられたのではないでしょうか。

日本語の中でも、古典に関しては、その表記をどこまで守るかは、なかなか微妙な問題があるかと思います。

抵抗感のない、無難な選択をなさったと、私は見ています。

こうしたことは、もっと我々が話題としてとりあげ、問題提起をしてもいいかもしれませんね。
Posted by genjiito at 2008年11月04日 23:21
御返事ありがたうございます。
私が問題にした掲示の古典本文は全体としては勿論「歴史的仮名遣」です。指摘した箇所だけがさうなつてゐたのです。「ひ」とあるべきところが「い」に。点検すればすぐ気がつくことなのに、それをせず、最後まで訂正しなかつたことに呆れてゐるのです。
「「一般の方々を対象とした」展示では源氏物語の本文を「現代仮名遣い」で記載するのが「抵抗感のない、無難な選択」だ」との御説には、賛成しかねます。驚きました。
Posted by 逸記 at 2008年11月05日 10:54
再度のご指摘を拝見し、最初の問題提起の意味を取り違えていることに気づきました。

 今回の場合は、文字入力時に、単に「h」が落ちたのかもしれませんね。「ローマ字入力」をなさったということが前提となりますが … 。
 ちなみに、私は「かな入力」なので、その場合にはまた別の文字が誤入力されます。

 「点検」「訂正」を持ち出されると、私も展示を担当したばかりなので、何ともコメントのしようのない問題となります。

 古典を身近に感じてもらう意味では、近世から現代にかけての『源氏物語』の受容を意識した横浜の源氏展は、意義深いものだったのではないでしょうか。
Posted by genjiito at 2008年11月05日 20:00
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