2008年06月12日

井上靖卒読(40)『夏草冬濤』

 『夏草冬濤』は、井上靖の中学時代を語る自伝的小説です。この作品の前にあたる幼少時代を語るのが、『しろばんば』です。そして、高等学校に入るまでは、『北の海』に描かれています。

 この小説は、中学3年生の洪作が、飛び込み台で味わった恐怖体験から始まります。
 誰にでもある気持ちが語られるので、つい読み進んでいく仕掛けになっています。

 この作品は、一章から十三章までで構成されています。各章に見出しがないので、私は見出しの言葉をつけながら読み進みました。
 私がつけた小見出しを、ここに記しておきます。

 一章 飛び込み台 /二章 カバンの盗難 /三章 成績で呼び出し /四章 将来の夢 /五章 二人の少女 /六章 女学生の列/七章 伯父/八章 子供たちと正月/九章 柔道と詩/十章 友情と愛情/十一章 フランス料理/十二章 お寺の娘/十三章 伊豆への船旅


 『夏草冬濤』は、純朴な人間が、お互いに関わりを持ちながら生きています。みんなが1人だけで生きてはいない社会が描かれています。そこが、現代の日本の社会から見ると,かえって羨ましくなります。
 現代人が切り捨てて来た煩わしさが、この作品の中では、かえって、人が生きていく上での推進力となっています。これは、戦後、急速に欧米化した過程で、削ぎ落としたものです。なくしたものの中にある、日本文化を産んだ核は、この作品の読み直しをする過程で、再評価すべきではないでしょうか。

 慎ましさと荒々しさは、大切なものだったと、改めて認識を深めました。

 最後の海のシーンで、白い雲と青い空が、非常に印象的でした。
 私が注目している月光の場面の設定は、この作品では4カ所に認められました。しかし、とくに意味を持たせたものではありませんでした。【3】




初出紙:産経新聞
連載期間:1964年9月27日〜1965年9月13日
連載回数:350回

新潮文庫:夏草冬濤
新潮文庫:夏草冬濤
井上靖小説全集26:夏草冬濤
井上靖全集16:長篇9


参照書誌データ:井上靖作品館
  http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/


posted by genjiito at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読
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