2008年05月29日

井上靖卒読(39)『戦国城砦群』

 読み進みながら、『戦国無頼』の登場人物や場面設定とクロスオーバーすることが多々ありました。いわゆる時代小説として、井上靖が物語る上での根源が近いからでしょう。

 登場人物で言うと、この2作品においては、次のように似た人物として出て来ます。

 『戦国城砦群』= 大手荒之介、藤堂兵太、酒部隼人、千里、弥々
 『戦国無頼』= 佐々疾風之介、鏡弥平次、立花十郎太、加乃、おりょう

 それはともかく、私はこの2作品は、共に好きな小説です。人間が生き生きと描かれていて,描写も印象的です。

 最初に、「死ぬなんてまっぴらだ」(文春文庫、12頁)と言う若武者のことばが逞しくて好感を持ちました。

 比叡と比良の山が見えるところ(124頁)は、井上のベースとなる風景です。

 そして、「生きてのし上がっていくためには、これも仕方ないではないか。」(125頁)というところも、井上の小説作法上の1つのスタンスです。

 この物語は、『源氏物語』の薫と匂宮によく似た設定が認められます。
 酒部隼人が薫、大手荒之介が匂宮です。そして、千里が浮舟でしょうか。
 もっとも、浮舟に比すべきはずの千里は、少し浮舟とは違いますが……。

 だんだん、背景に本能寺の変が見えて来ます。そして、隼人の最後が、きれいに描かれています。
 この物語は、血腥い話が、静かに幕を閉じます。
 夜空と流星の中で、虫の声を聞きながら2人の男女が新しい生を歩もうとします。
 井上らしい、明日への明るさを感じさせながらの綴じ目に、好感がもてます。

 この小説には、月が効果的に用いられています。

・月夜の小屋(36頁、38頁、40頁)
・月光の中の千里(42頁、45頁)
・旅立つ小宮山に冷たく白い月光(158頁)
・隼人から走り去る千里に月光(158頁)
・笹の葉に月光(160頁)
・大雨の後の月(182頁)
・月光の中で縛られた弥々(208-209頁)
・月明かりの中の弥々(217頁)
・月光の中を走る荒之介(221頁)
・月光の中の弥々(226頁)
 
 女性である千里に2例、弥々に3例、月が光を降り注ぐのです。
 井上の小説における、1つの特徴だと思っています。【4】



初出紙:日本経済新聞、他
連載期間:1953年9月24日〜1954年3月7日
連載回数:159回

文春文庫:戦国城砦群






posted by genjiito at 00:52| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読
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