2008年02月22日

源氏千年(10)文化を食べる

 京都四条の高島屋で、「第52回 京の味 ごちそう展」が開催されています。
 今回は、「源氏物語千年紀」にちなんだ企画も組まれ、京料理の文化レベルの高さが実感できます。
 食べたいと思うよりも、ジッと眺めているだけで満足しました。

 以下に、会場で撮影した、たくさんの写真を掲載します。


看板



 入口の料理は豪華です。まずは、華やぎから始まります。
 右上には、宇治市源氏物語ミュージアム所蔵の『伝土佐光則筆 源氏絵鑑帖』をパネルにして展示してあります。
 これには、短い説明がありますが、一般の人には、何が何やらわからない説明だと思いました。こういう説明は、非常にむつかしいですね。季節はいつで、誰と誰が何をしているのか、という割り切りが必要でしょう。


Ofagqfmr_sパネル



 今回は、6巻の源氏絵が展示されていました。
 08花宴、26常夏、32梅枝、43紅梅、49宿木、51浮舟です。
 いずれも、京料理との関わりで選択された巻のようですが、その選定の意図が、会場に来た人にわかったでしょうか。私には、よくわかりませんでした。
 展示会場に文字で説明するのは無粋なので、パンフレットでも用意してもよかったのではないでしょうか。展示の手法に、一考の余地があります。
 京料理と『源氏物語』を結びつけるのであれば、「千年紀」という要素に胡坐をかくだけではいけないと思います。これでは、文化が表面をなぞるだけで終わります。その深みと琴線に触れるものを、目指すべきでしょう。そのためには、通り過ぎて何となく文化の香りを感じただけで終わり、とするのではなくて、もう少し目で納得してもらえる仕掛けが必要です。
 その点の工夫が、私には感じられなくて、残念でした。

 とは言うものの、難しいことは抜きにして、とにかく楽しんで見て回りました。


0hwj6hfe_s源氏絵



 源氏絵の前に、有名な料亭の料理が並びます。食材のみならず、器や添え物の妙も楽しめます。


Kz8fhsuf_s49宿木



 源氏絵の左横には、簡単な説明がありました。

第49帖 宿木(やどりぎ)

帝、薫と碁を打ち、掛け物として菊を折らせ、二宮の降嫁の意をほのめかす。




 繰り返しになりますが、これでは、見ている人には、この料理とこの源氏絵との関係がさっぱりわかりません。
 さらに、せっかくの牛車が、料理とうまく調和していません。単なる、雰囲気作りの添え物です。もったいない構成です。もう一工夫してほしいと思わざるを得ません。
 これでは、料理が死んでいます。
 テーマが欠落しているからです。
 これを作ったのは、名のある店なのでしょう。しかし、表面的で駄作です。見る者との間に、文化が共有されない、独りよがりの蝋細工のサンプルの域を脱していません。
 作り手と鑑賞者の間に、何が共有されるのかは、食と文化のことを考える時に、大切な要素です。
 これなどは、見せ物としてはまだ出来のいい方なので、例としてあげました。他の多くは、目を覆うばかりのレプリカですが、そこはそれなりの企画だと思って、見るしかありません。街の和風小物屋さんに来たつもりで見た方が、結局は楽しめるようなので、以下、そうした視点で紹介しましょう。

 とにかく、文化との融合などということには拘らずに、先を急ぎましょう。


Xzogwqcp_s几帳と器



 これは、なかなか楽しめるものになっています。


Srl1_kix_s几帳



 まずは、右側にある、この几帳がいですね。


Ojfyf5jz_s器表



 そして、左側にある、器の周りの仮名文字が目を引きます。

 さらには、その裏側にも、何が書いてあるのだろう、と興味を掻き立てます。


G3mszcbl_s器裏






Agatuhxh_s源氏香と貝



 これも、ジッと見入ってしまいました。
 貝の表側に、源氏香図が描かれているのです。
 台といい、凝りに凝った逸品です。


0jyxnmat_s貝合わせ



 次も、つい唸ってしまう作品になっています。


Ucec8luf_s歌仙絵器と貝合わせ



 左側の四角い器には、歌仙絵が描かれていました。


Jsaxdekj_s歌仙絵器



 これは、「めぐりあひて……」で知られる紫式部の『百人一首』の和歌が描かれた器です。
 その右上が、小野小町、左上が伊勢です。
 もう、日本人で変体仮名が読める人は少ないのですから、やはりパンフレットで、日本人がかつて使っていた文字の説明をしておいてもよかったのではないでしょうか。
 悲しいことですが、日本人は日本の文化としての仮名文字を読めなくなってしまいました。それを、このように画像として展示するだけでは、文化の破壊の追従です。
 まだ日本には、このような仮名文字を読める人がいます。
 諦めてしまわずに、日本古来の仮名文字が読める人が増えるように、こうした機会を利用して、啓蒙的に意識を高める努力をしてもいいのではないでしょうか。
 このような展示会で、あえて日本の伝統文化を、遥か彼方のものとする必要はないのです。古典を憧れの対象にするのではなくて、昔はよかったとすることなく、現代に再生する道を、このような機会に模索すべきではないか、と思いました。


Fermxguc_s貝に源氏絵



 左側には、貝に扇面の源氏絵が描かれています。
 それぞれに、丹精込めて作られた料理が盛られていることを、つい忘れてしまいます。
 日本の文化の奥深さを体感しました。惜しむらくは、絵の場面と料理が関連しているとよかったのですが。もしそうであれば、少し説明があっても、と思いました。


Huggxxgn_s和菓子



 和菓子も、なかなか凝っています。
 可能であれば、巻名とお菓子の関係を知りたいと思いました。
 かつて、凮月堂が『源氏物語』をテーマにした和菓子をつくりました。その時には、明確に製作者の解釈が説明されていました。思いつきではなかったのです。
 また、虎屋も挑戦しました。それも、しっかりとした裏付けがあっての作品でした。
 今回のものは、京銘菓真味会「末富」の創作和菓子のようです。
 これも、今回きりの単発企画に終わらせず、継続していろいろな作品を提案してほしいと思います。そして、巻名に対する、色や形や味の根拠を明示してもらいたいものです。

 「源氏千年紀」を記念した京都伏見の地酒もありました。
 まずは、伏見の「玉の光」


Fznq8lfg_s源氏酒1



 続いて、伏見の「キンシ正宗」です。

Y1fbn18r_s源氏酒2



 このイベントは、日本の伝統的な食文化を、『源氏物語』を通して堪能できる場所となっています。適当に並べたという印象はぬぐえませんが、その意図はどうにか伝わりました。
 日本料理の粋を、このような機会だからこそ、シャワーのように浴びることが出来ました。次の世代へ文化を継承するためにも、このような場はたくさんあればあるほどいいと思います。
 出来はあまりいいとは思えませんが、何かを思わせてくれたという点では、得難い経験となりました。

 今回の企画全般に感じたことですが、有名とされるお店の底の浅さにがっかりです。
 こんなに日本の料亭は低レベルになってしまっていたのでしょうか。
 『源氏物語』という名前に乗っかっているだけです。どのように解釈した結果なのか、ということのヒントだけでも、見る者に示さないと、勝手な自己満足の世界に終わります。見た目のきれいさだけでは、正直言って、文化とは乖離していくだけです。
 安直にブームに乗って展示した、ということに留まるのでは、もったいないことです。見る者と共有するものがないのです。単に、私たちは、きれいに仕上げた料理を、見せてもらうだけです。そして、そこには作り手の『源氏物語』への理解の未熟さが露呈しています。
 私が、総じて作品のレベルが低くてがっかりしたのは、こうした点からのものです。

 さらなる努力を見せてほしいものです。





posted by genjiito at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ◎源氏物語
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