2008年01月12日

井上靖卒読(21)『あした来る人』

 男女の言動や行動が、丁寧に語られて行きます。
 日常が静かに、ゆったりと描かれています。
 この穏やかな時間の流れが、非常に上質な物語を産み出していると思います。

 長編の中ほどで、克平が山で遭難したと新聞が報じます。すると、杏子が信州の大町へ飛んで行く。このあたりから、この小説はおもしろくなります。

 克平の描写も、印象が大きく変わります。突然、山男の魅力が満ちた人間として立ち現れてくるのです。

 2人の関係も、以後は微妙なおもしろさを見せます。2人のバランスと、対仲間の関係が、うまく描かれていきます。

 曽根という在野のカジカの研究者の、学者としての誠実な姿勢を描くところは、共感を持ちました。出版に対しての考えはいいですね(新潮文庫400頁、406頁)。

 克平のカラコルム行きは、『星と祭』の前奏となっています。「黒い潮の渦」(432頁)という語が気になりました。
 井上靖のキーワードになるかもしれません。

 カラコルムへ旅立つ克平に、曽根はインダス川の上流で魚を釣ってくれと頼みます。今後につながる、おもしろい発想です。月見よりも、学問的で現実的です。

 『星と祭』では、旅立ちと女性問題は絡めていません。俗を削ぎ落としていた、というべきでしょうか。

 最後は爽やかに4人の男女が「あした来る人」となることが語られています。梶という男は、この小説を支配しています。【4】


初出紙:朝日新聞
連載期間:1954年3月27日〜11月3日[2]
連載回数:220回

新潮文庫:あした来る人
井上靖小説全集7:あした来る人・波濤
井上靖全集5:短篇5
井上靖全集10:長篇3


映画化情報
映画の題名:あした来る人
制作:日活
監督:川島雄三
封切年月:1955年5月
主演俳優:山村 聡、月丘夢二

posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読
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