2020年09月29日

読書雑記(297)高田郁『あきない世傳 金と銀 九 淵泉篇』

 『あきない世傳 金と銀 九 淵泉篇』(田郁、時代小説文庫、2020年9月)を読みました。快調に物語は展開しています。

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■第一章 「ままならぬ心」
 幸の妹の結が、出来たばかりの型紙を勝手に盗み出しました。ただし、その型紙には本来とは違う手が入っており、3箇所に別の文字が紛れ込んでいるということです。開巻早々、読者は釘付けです。『4』

■第二章 「ふたつ道」
 結は、問題の豪商「音羽屋」の妻となりました。しかも、型紙を手土産にして。
 婚礼の日、姉妹の訣別の場面となります。緊張感の中で、2人の決意がみごとに描かれます。【5】

■第三章 「春疾風」
 型紙に忍び込められていた3文字は、五鈴屋を救うものでした。それを見抜いた男は、五鈴屋を立て直した五代目、元夫の惣次でした。型紙を巧みに活かして、後添いの地位を確たるものにした幸の妹結。意外な展開が続きます。【5】

■第四章 「伯仲」
 同じ日に、音羽屋と五鈴屋で十二支の文字ちらしの小紋染めを売り出します。
 妹の結は、予想外に活躍します。醜いいがみ合いにならないのが、この作者の味です。本家筋と分家筋、どちらがどうなるのか。このままで済ます作者ではありません。これからの展開が楽しみになる仕掛けが、当然用意されていることでしょう。【3】

■第五章 「罠」
 元夫の惣次と、偶然お寺で出逢います。そして、無体な上納金と仲間外れの狙い撃ちが、誰かの罠であるかを教えられます。これからどうしたらいいのか。惣次は幸にヒントを授けました。人間関係が、ぐるぐると巡りながらも、物語は巧みに展開していきます。作者が物語を構成する力量を上げたことがわかります。【3】

■第六章「菜根譚」
 五鈴屋は、寄り合いから仲間外れとされ、呉服商を諦めることになりました。そして、木綿と麻の太物ばかりを扱うことになったのです。
 掛け軸の縁で、「菜根譚」の内容が明かされます。その箇所を引きます。
衰颯的景象 就在盛満中
發生的機緘 即在零落内
「衰える兆しは最も盛んな時に生まれ、新たな盛運の芽生えは何もかも失った時、既に在る。『菜根譚』ではこのあと、『だからこそ、君子たる者は、安らかな時には油断せずに一心を堅く守って次に来る災難に備え、また、異変に際した時にはあらゆる忍耐をして、物事が成るように図るべきである』という内容に続くのです」
 弥右衛門の言葉は、五鈴屋の主従の胸を打った。(176頁)
 逆境に置かれた幸にとって、勇気付けられる言葉でした。【4】

■第七章「帰郷」
 幸は大坂に向かいます。江戸を発ってから19日で大坂入り。早い旅です。
 幸は、在りし日の大坂でのさまざまな思い出が甦ります。大坂本店は、江戸本店を助けにかかるのです。
 物語はますますおもしろさを増していく仕掛けとなっています。【3】

■第八章「のちの月」
 十三夜の月を観ながら過ぎし日を思い出す場面は、短い中に点綴されながらも秀逸です。
 全体の流れは、先へとつなぐ段となっています。【3】

■第九章「大坂の夢 江戸の夢」
 紅屋の菊栄が江戸に出てきそうです。新しい簪を作ったので、それを江戸で商いたいとの思いがあるからです。それを支えようとする幸との話は、今後さらにおもしろく展開することでしょう。
 大坂で十日を過ごした幸たちは、帰りの江戸への旅は二十日かかりました。【3】

■第十章「出藍」
 藍染を用いた浴衣作りが始まりました。形も難題でした。思い通りの浴衣は、歌舞伎役者の楽屋での着物として買い取られました。その帰り、幸と結とのすれ違い。緊迫の場面がみごとに描かれています。【4】

■第十一章「天赦日」
 幸は、浴衣と単衣の間のものとして、風呂帰りに着られる木綿の着物を思案し出します。
 3月には、大坂から、菊栄、お梅、鉄助の3人が上京して来ることになりました。
 木綿のための新たな型染めが完成します。物語は、また新しい世界へと展開していくことになるのです。【4】
 
 
 
posted by genjiito at 19:36| Comment(0) | ■読書雑記